「十分な議論もせず、密室で問題を終わらせようとしているのではないか」
「呆れるような回答でした」
スマイルアップ(旧ジャニーズ事務所)が文藝春秋編集部に寄せた回答に強い憤りを示すのは、ジャーナリストの鈴木エイトさんと弁護士の伊藤和子さんだ。
“史上最悪の性加害事件”を巡る被害者救済は、昨年10月に行われた社名変更会見以降、自社HPで一方的な報告を行うのみで、その全貌や実態は明かされないまま。被害者の間では疑心暗鬼が広がっている。
そこで「文藝春秋 電子版」では、こうした現状を懸念するお二人を招き、オンライン番組「 ジャニーズ被害者救済『ここが問題』 」を1月16日に配信。番組では、ブラックボックスと化した被害者救済の問題点を徹底追及した。
「法を超えた補償とは?」
「被害者は補償金額の妥当性をどう判断したらよいのか?」
「膨大な被害の上に繁栄した企業として被害者に利益分配すべきでは?」
「今後の会見予定は?」
編集部では、旧ジャニーズ事務所に数々の疑問点について質問状を送付。1月16日付で得られた事務所の回答は、驚くべきものだった。
旧ジャニーズ事務所の被害者救済は、一体何が問題なのか。編集部の質問状に対する回答文を掲載する。
1.補償水準の公表について……
《質問》 具体的な補償内容等について、プライバシーを理由に公表を差し控える中、金額の多寡について疑心暗鬼が広がることで被害者間の分断が生じ、被害者個人が金額の妥当性について判断する材料が皆無に等しい現況を懸念する声も多く挙がっています。
《回答》 (前略)弊社としては、「補償金額の算定に関する考え方」に基づいて、適切な補償金額が算定されていると考えております。 また、弊社は、補償金の支払を受けた複数の被害者の方から、誹謗中傷を受けることを避けるために、具体的な補償金・総額等を開示しないでほしいとの要請を受けております。さらに、大変多くの被害者の方が、過去にジャニーズJrであったことを知る周囲の方々から被害有無を始め様々に問われたり好奇の目に晒されることの苦痛や誹謗中傷等に遭われる怖さを訴えられておられます。弊社としては、補償金の支払いを受けられた被害者の方のご要望を踏まえて、補償金の支払いを受けたことによる誹謗中傷等を避けるため、具体的な補償金額・総額等を開示しないこととしております。
2.口外禁止条項について……
《質問》 補償金の支払いの際、金額や補償内容について第三者に公表しないことを被害者に求めている事実はありますか。
《回答》 弊社は、補償金の支払を受けた複数の被害者の方から、誹謗中傷を受けることを避けるために、具体的な補償金・総額等を開示しないでほしいとの要請を受けております。弊社としては、補償金の支払いを受けられた被害者の方のご要望を踏まえて、補償金の支払を受けたことによる誹謗中傷を避けるため、金額や補償内容について第三者に公表しないことをお願いしております。
《エイトさんのコメント》 「『補償金の支払いを受けた方たちの要望によって』、と被害者側に下駄を預けてしまっている。被害者の責任にしてしまっている。補償の基準を示し、透明性を高めてほしいという被害者の声を置き去りにしている状況がある」
《伊藤さんのコメント》 「誹謗中傷が起きるのは、それまで被害を否定し続けてきた事務所側の対応に発端がある。補償金額に関して、例えば(1月15日に会見を行った)被害当事者の会の方々は、『補償水準・基準を明らかにすべき、口外禁止条項は設けるべきではない』ということを要請している。被害グループが、透明性の高い形で補償水準を明らかにすべきと言っているにもかかわらず、彼らの声は反映せず、一部の被害者の声を優先するのは問題がある。スマイルアップ社が示した『補償金額の算定に関する考え方』には明確な算定基準が記されていない。被害者のプライバシーを口実にし、透明性を高めずブラックボックス化しているように思える。非常に問題が大きいと思います」
3.被害者への利益分配について……
《質問》 貴社の事業活動が膨大な被害の上に成り立ってきた実態から、被害者への利益分配の観点で、貴社の支払い能力に応じた補償金を一律分配すべきとする声もあります。 これについて貴社のご意見をお聞かせ下さい。
《回答》 ご指摘は真摯に受け止めておりますが、一方、弊社に所属していたタレント及びそれを支えてくださって来たファンの皆様のご支援にも目を向ける必要があります。弊社としては、再発防止特別チームの報告書に従って、補償金額の査定は被害者救済委員会に一任しております。弊社としては、補償を全うすることが責務であると認識しており、今後も、その責務を果たして参ります。
《質問》 小誌では、被害賠償における透明性確保の一環として、貸借対照表の開示および決算公告の実施が必要と考えます。これについて貴社のご見解と対応をお聞かせ下さい。
《回答》 弊社としては、再発防止特別チームの提言を踏まえて、被害者救済委員会を設置し、補償金額の算定を一任していること、補償金額算定に当たっての具体的な考慮要素も示されていることから、透明性をもって、補償が進んでいると考えております。
《エイトさんのコメント》 「質問に対する回答になっていないと思いますし、膨大な被害の上に旧ジャニーズ事務所の繁栄があったということなので、得てきた利益を被害者に分配すべきという議論はあって然るべきだと思います。未曾有の性加害と圧力によってこれだけの繁栄をし、莫大な資産を持っている会社。多くの被害者の悲しみ苦しみの上に成り立っていた会社の得ていた利益を分配すべきではないのかという意見は当然あります」
《伊藤さんのコメント》 「そもそもスマイルアップ社は補償専門の会社としているわけですから、補償をすることがミッション。どれだけ資産があり、被害者にどう配分していくのか、ミッションに基づいた結果の説明責任が問われます。仮に多額の資産が会社に残った場合、最終的に藤島ジュリー景子さんや東山紀之さん、顧問弁護士事務所、後継会社に承継されることはスマイルアップ社の成り立ちとして到底許されないことではないでしょうか」
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同番組では、ほかにも「法を超えた救済とは?」「被害者の心のケアは?」「妥当な補償金額とは?」などの疑問に対し、旧ジャニーズ事務所から寄せられた回答の一つ一つについてお二人と詳細に分析。“史上最悪の性加害事件”をブラックボックス化させないための適切な対応を具体的に提言している。
二人が出演したオンライン番組「 ジャニーズ被害者救済『ここが問題』 」は、「文藝春秋 電子版」で アーカイブ配信 を観ることができます。
(鈴木 エイト,伊藤 和子/文藝春秋 文藝春秋電子版)