能登半島地震で被災後、避難所ではなく自宅などで暮らし続ける「在宅避難者」が、2600人超にのぼることが29日、石川県への取材で分かった。ただ、多くの被災市町では避難所や2次避難などの対応に追われ、人数などの実態把握が進んでいない。地震から29日で4週間。在宅避難者の健康確認や支援が不十分なままでは災害関連死にもつながりかねず、県や各市町は実態確認を進める方針。
県は19日、避難所以外で生活する避難者向けに専用窓口を設置。LINE(ライン)や電話で居場所などの情報を登録するよう呼びかけ、28日までに6884人の登録があった。このうち自宅での在宅避難者は2651人で、県内外の親類宅などへの避難者は4054人だった。
避難所に行かない理由としては、介護が必要な家族がいることや、避難所生活に不自由さを感じて敬遠するケースなどが想定される。しかし、被害が甚大だった珠洲(すず)、輪島、七尾の3市と能登、穴水、志賀の3町は、避難所などの対応に人手を取られ、在宅避難者の把握にほとんど手が回っていないのが実情だ。
県は専用窓口に届いた情報を各市町と共有し、物資や医療支援につなげる方針。各市町も保健師らによる戸別訪問を始めており、実態調査を兼ねて在宅者の健康状態の確認を進めていく。
支援の手に「優しさ、勇気になる」
自宅など避難所外で生活を続ける「在宅避難者」に対しては、情報や支援の手が届きにくいのが実情だ。能登半島地震発生から1カ月が迫る中、ボランティアによる支援が在宅避難者を支えている。
「温かい肌着もたくさん用意しています。遠慮しないでご家族の分も持って帰ってください」
石川県珠洲(すず)市で営業を再開した銭湯の駐車場。雪交じりの冷たい風が吹く26日午後、災害支援を行う公益社団法人「シビックフォース」(東京)のスタッフ5人が被災者に声をかけた。
最初はためらいがちだった被災者もスタッフから肌着やタオル、せっけんなどを手渡されると、「(断水で)洗濯できなかったのでうれしい」「この優しさが勇気になる」と笑顔を見せた。
地震で自宅がほぼ全壊しながら、家族とともに在宅避難を続ける女性(77)は、タオルや肌着などを受け取った。共働きの両親に代わって幼い孫の面倒を見なければならず、どうしても自宅から離れられないという。「小さい子もいるし、避難所は何だか落ち着かない。いろいろいただけるのはうれしい」とほっとした表情を浮かべた。
銭湯での配布は26日で3回目。いずれも在宅避難者の需要が多く、この日は肌着約200人分をはじめワゴン車3台分の物資を配布した。同法人のスタッフ、猪俣森太郎さんは「避難所に行けば食材や水はあるが、洗濯できないので肌着はほぼ使い捨てのようだ。寒くなったので多めに持ってきたが、喜んでもらえてよかった」と話す。
周囲への気遣いを敬遠したり、介護を理由に避難所を利用しなかったりするため、在宅避難者の存在は見えづらく、支援は後回しになりがちだ。猪俣さんは「さまざまな事情で避難所にいけない人もいる。そうした人たちに少しでも支援の手を伸ばし、生活再建の一助になれたら」と力を込めた。(小川恵理子)