八木秀次 突破する日本 「国家安全保障戦略」が示す〝反撃能力〟では国は守れない 1発目のミサイルが飛んできてから動く…専守防衛の範囲内

日本の防衛は穴だらけだ。大きな穴は埋められるはずだった。
2022年12月、「国家安全保障戦略」が閣議決定され、「反撃能力」の保有が認められた。敵基地攻撃能力とも呼ばれたものだ。
反撃能力は同戦略の策定前には、「法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」としたものの、政策判断として保有しないとしていた。法理的な根拠とは、1956年2月29日の衆院内閣委員会での鳩山一郎首相の答弁だ。
「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられない。(中略)たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」(船田中防衛庁長官代読)
反撃能力の保有について、東京新聞は「(政府は)日本が相手国の攻撃で実際に被害を受けていなくても、『相手が攻撃に着手した』と判断すれば、敵基地攻撃能力を発動する可能性を否定していない。相手国が国際法に反する『先制攻撃』と主張する可能性もある」(2023年1月25日付)と批判していた。
だが、「国家安全保障戦略」が示す反撃能力とは、そのようなものではない。
同戦略は「弾道ミサイル防衛という手段だけに依拠し続けた場合、今後、この脅威(=わが国へのミサイル攻撃、筆者注)に対し、既存のミサイル防衛網だけでは完全に対応することは難しくなりつつある」として反撃能力保有が必要だとする。
問題は次の記述だ。
「このため、相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、反撃能力により相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある」
これは相手国から1発目のミサイルが飛んできた後、2発目以降の飛来を防ぐために敵基地を攻撃するというものだ。敵国領土の攻撃はするものの、先制攻撃ではなく、専守防衛の範囲内だ。
しかし、これでは、1発目のミサイルが防衛網で防げなかった場合、日本に被害が生ずる。現に中国や北朝鮮などの極超音速ミサイルは迎撃が難しく、飽和攻撃などの実戦的な運用能力も高めている。被害は甘受せよということなのか。この程度の「反撃能力」では国は守れない。 =おわり
■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は憲法学。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。山本七平賞選考委員など。安倍・菅内閣で首相諮問機関・教育再生実行会議の有識者委員を務めた。法務省・法制審議会民法(相続関係)部会委員、フジテレビジョン番組審議委員も歴任。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。

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