災害ごみ「244万トン」さらに上振れか 半島の道路寸断、鍵握る海上輸送の広域処理

能登半島地震では、石川県内で排出される「災害ごみ」の総量が約244万トンと推計されている。県は29日公表した実行計画で2年後の令和7年度末までに処理完了を目指すとしたが、被災市町の排出量は推計を上回る見通しで、道路の寸断も不透明感に拍車をかける。地震から1日で2カ月。家屋解体は今後本格化するが、ごみ処理の停滞は復興に影響しかねず、国も県外での広域処理支援を本格化させる。
石川県輪島市の山間部にある市営ソフトボール場の約3千平方メートルの駐車場。市内の災害ごみを処理施設に搬送する前の仮置き場となっており、大量のごみを積んだトラックが次々にやって来る。自転車や布団、木材などが種類ごとに分別され、成人の背丈より高く積み上がる。
輪島市では2月に入り、市内3カ所に仮置き場を設置。再利用を増やして処理費用を削減しようと、「可燃粗大ごみ」や「小型家電」など9種類に分別するよう呼びかけ、回収は地元の建築業組合に委託した。
市環境対策課によると、これまでに25メートルプール約10杯分に相当する約4千立方メートルを回収。県は輪島市だけで約35万トンの災害ごみが発生すると推計するが、市の担当者は「至るところに災害ごみがあり、推計よりも膨れ上がるはずだ」と話す。実際、熊本地震では当初推計の2倍超になった。
しかも、市内の道路は復旧関係の車で渋滞が続き回収に時間がかかり、山間部に通じる道路は復旧が遅れて回収の見通しは立たない。徹底したごみの分別にも市民からは「判断が難しい」と不満の声が上がる。
他県の協力必要
県は令和8年3月までに災害ごみの処理完了を目指すが、被害が甚大な輪島、珠洲、能登、穴水の奥能登2市2町だけで推計排出量は約151万トン。地域の年間ごみ排出量の59年分で、処理能力を大幅に上回る。地元だけでは処理できない状況で、すでに県外施設への搬出も始まっている。
県の実行計画では、災害ごみ約244万トンのうち、コンクリート殼(がら)や金属くず約120万トンは、建設資材などに再生利用する。比較的軽い木くずなど約38万トンは県外処理の対象で、うち約28万トンは海上輸送。地震による海底隆起の影響がなかった飯田港(珠洲市)と宇出津港(能登町)から、富山、新潟、福井各県への搬出を想定する。
県資源循環推進課の担当者は「まだ道路状況も悪く、海上輸送で効率的に搬出したい」と説明。県内では解体・回収業者や処理施設も不足しており、「迅速処理のために他県に協力を求めたい」と話す。
国も運搬支援
平成23年の東日本大震災では災害ごみ約2千万トンの処理完了までに約3年、28年の熊本地震では約311万トンの処理に約2年かかった。熊本地震では海上輸送などを活用し、約50万トンが県外で広域処理された。
環境省幹部は「今後は広域処理に向け、運搬体制をいかに確立するかが重要になる」と強調。環境省では国土交通省とともに海上輸送を支援するほか、特定非常災害指定で現在2・5%となっている処理費用の地元負担分について、さらに軽減する方向で検討する。
馳浩知事は2月28日の県災害対策本部会議で「被災者の生活と生業(なりわい)の再建を行うには、災害廃棄物の処理を迅速に進めることが不可欠」と述べ、国などと連携を図る必要性を訴えた。
課題直面の被災地「東松島方式」も誕生
処理完了までに年単位の時間を要する災害ごみ。東日本大震災や熊本地震で被災した自治体では、多くの課題に直面したが、創意工夫で乗り越えたケースもあった。
熊本地震では、熊本県内で年間排出量の5年半分に相当する災害ごみが出た。県によると、倒壊家屋などの公費解体が始まると、仮置き場には想定を超えるごみが搬入。業者不足などで処理施設に搬出できず、複数の仮置き場が満杯になった。
このため、ごみを迅速に破砕、焼却処理できる集積場を新設したが、完成まで仮置き場での受け入れを制限する事態に陥った。県の担当者は「もう少し早く対応すべきだった」と振り返る。
東日本大震災で被災した宮城県東松島市では、年間排出量の300年超分となる約325万トンの災害ごみが発生。市は膨大なごみ処理に新たな手法を取り入れた。
金属や木材など19品目に分別、処理する方式で9割以上の再利用に成功。当初645億円と見込んでいた経費を588億円に圧縮した。被災者900人を分別作業員などとして雇用し、約3年で処理を終えた。
この取り組みは「東松島方式」と呼ばれ、全国で注目を集めた。市の担当者は「コストを抑えつつリサイクルによる収益化につなげ、雇用創出にも成功した」とする。
市はこの経験を広げようと、熊本地震では職員が現地で助言。今回も石川県輪島市などに職員を派遣しており、ノウハウの共有を図っている。
(鈴木文也、小川恵理子)
「復興への道筋描き処理を」
平山修久・名古屋大准教授(災害環境工学)
災害ごみの処理は、阪神大震災や東日本大震災など過去の災害でも議論の的になってきた。今回の能登半島地震で問題なのは、甚大な被害を受けた奥能登地域の多くが山間部で、周囲を海に囲まれているという点だ。
多くの家屋が倒壊し、大量のがれきが発生しながらも、置き場に適した土地が少ない。石川県は海上輸送などでごみを搬出する方針を示すが、利用できる土地が少ないからこそ、被災者とともに県や市町がしっかりと復興への道筋を描いた上で、連携してごみの処理を進めるべきだ。
がれきを撤去できなければ次の段階に進めないと考える必要はない。撤去・処理と同時に、仮設住宅の建設など復興に関する取り組みを進めればいいのではないか。
東日本大震災では被災した宮城県東松島市で、災害ごみの処理を被災者の雇用につなげた例もある。過去の事例を基に地域の特性も踏まえながら、復興という枠組みの中でごみ処理を進めていくべきだ。復興の段階に合わせ、ごみ処理に人材や機材を投入できるよう、県が進捗(しんちょく)を管理していくことも重要だ。

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