能登半島地震で被災した石川県では、発生から間もなく2か月となる今も、140人以上が「車中泊」を続けている。自宅が倒壊し、仕事の都合で遠方への避難もできないなど、やむを得ない事情を抱えた人が多い。車内での寝泊まりが長引けば、体調の悪化や命を落とす危険もあり、専門家は注意を呼び掛けている。(赤沢由梨佳、野口恵里花)
輪島市の海女の女性(45)は1月5日頃から、知人の敷地を借りて車中泊を続ける。地震直後に身を寄せた小学校には、プライバシーを守る間仕切りがなかった。ミニバンの後部座席を倒し、夫と並んで寝ているが、寝返りもうてず、寒さがこたえる。
自宅は裏山が崩れそうなため戻れない。夫は土木会社で道路復旧の仕事をしており、地元を離れることができない。仮設住宅への入居は抽選に漏れ続けている。輪島市では28日現在、4140世帯が仮設住宅への入居を希望しているのに対し、月内に完成するのは76戸。2%に満たない。
今月に入り、左足のしびれが強くなった。「つらいし、海女の仕事に支障が出るのも怖い」。女性はそう話しながらも、「ほかに選択肢がない。早く輪島に住居がほしい」と切実な思いを訴えた。
石川県によると、県内では少なくとも141人が車中泊をしている。輪島市は市内に50人ほどいるとして、仮設住宅を用意できるまでの間、保健師を巡回させて健康相談に乗っている。
車中泊は「エコノミークラス症候群」の発症リスクを高める。狭い空間で同じ姿勢を続けることや水分不足が原因で、脚の静脈にできた血栓(血の塊)が肺の血管に詰まる病気だ。命を落とすこともある。2016年の熊本地震の翌年に読売新聞が行った調査では、熊本、大分両県で災害関連死と認定された170人(当時)のうち、4人に1人が車中泊を経験していた。
04年の新潟県中越地震をきっかけにエコノミークラス症候群を研究する新潟大の榛沢和彦・特任教授(60)は「車中泊はあくまで避難所が準備できるまでの間、応急的に利用するもの。体への負担を考えると、2週間が限度だ」と指摘する。
避けられない場合には▽真横になれるスペースを確保する(乗用車は1台に2人まで)▽4時間ごとに5分程度の歩行や、ふくらはぎのマッサージを行う▽弾性ストッキングを着用する――などの対策が有効だという。