京都大医学部付属病院は4日、世界で初めて、生体の肺と肝臓を1人の患者に同時に移植する手術を実施し、成功したと発表した。先天性の疾患がある関東在住の10歳未満の男児に、両親の肺、祖父の肝臓のそれぞれ一部を移植した。手術は2023年11月に行われ、男児は3月1日に退院した。
同病院によると、米国やドイツなどでは脳死患者から提供された肺と肝臓の同時移植は少数ながら行われている。日本は海外と比べて脳死による臓器提供が少ない現状があり、脳死でも実施事例がなかった。生きている健康な人が提供者となる肺と肝臓の同時移植は世界初で、同病院は「新しい治療の可能性を広げた意義は大きい」としている。
男児は染色体の異常が原因で、全身の臓器などに機能不全が生じる「先天性角化不全症」の患者。2歳で血液細胞が減少する再生不良性貧血になったため、4歳の時に妹から骨髄移植を受けた。しかし、その後に肺や肝臓の疾患も発症し、移植が必要になった。
肺と肝臓を同時に移植すると、手術時間が長くなるなどリスクが高まるため、同病院は肺と肝臓を別の日程で移植することも検討した。しかし、どちらかの臓器だけを移植すると、残る臓器の移植手術までに男児の体力が持たない可能性が高いと判断し、同時移植を選んだ。
手術は父親(40代)の右肺、母親(40代)の左肺、祖父(60代)の肝臓のそれぞれ一部を移植。四つの手術室を使い、医師ら約30人が参加して、約18時間かかった。両親と祖父は既に社会復帰し、男児は酸素吸入などがなくても自由に歩けるようになっているという。
男児の両親は「これまで移植を諦めるしかなく、何もできないもどかしさや絶望感を抱えている患者さんや親族の方の一筋の光になればうれしいと考えております」とコメントした。肺移植を執刀した同病院呼吸器外科の伊達洋至(ひろし)教授は「同時移植の可能性を示せた」と強調した。【菅沼舞、柳楽未来】