「逃げるな」「出てこい」自殺した中学3年男子の告別式で糾弾された女性教師の“暴言指導”とは《遺族が6580万円の賠償訴訟》

〈 《鹿児島自殺、提訴へ》「人のことを悪く言わない子が珍しく…」中3男子を追い詰めた女性教師の“強烈すぎる指導”とは 〉から続く
「不適切指導は権利侵害です。児童生徒や保護者は、自分がいけなかったのだと理不尽を受け入れ、追い詰められていきます。指導とは呼べない恫喝のようなことを学校または管理職が容認していたのであれば問題だと思います」
2018年9月、鹿児島市の中学3年生だったサトルさん(仮名、当時15歳)は2学期の始業式当日に自宅で自殺した。この問題で、母親のアカネさん(仮名)が、担任の女性教諭Aの指導が不適切だったとして、市を相手に約6580万円の賠償を求めて提訴した。
今年3月4日に鹿児島地裁で第1回口頭弁論が開かれ、アカネさんは意見陳述で「不適切指導をなくしたい。指導死は防げる」とも述べた。そして、「息子は今年の1月、成人式を迎えるはずでした。会いたかった」などと涙ながらに話した。
「ヘラヘラあくびしたり。そういうのを学んできたのか、ボケ」
訴状や遺族の話によると、サトルさんが自殺したのは18年9月3日。所属していたバスケットボール部では、夏休みの大会で引退するまでレギュラーとして活躍していた。背が高く、釣りや自然が好きで活発な面があった。しかし、夏休みの宿題を忘れたことに対してA教諭から過度な叱責を受けた。その後サトルさんは自宅に戻り、自殺した。遺族側は、不適切な指導と自殺には因果関係があると主張している。
遺族が持つ音声データには、生徒を叱責する際のA教諭の恐ろしい口調が録音されている。第三者から遺族に提供されたものだという。
「ヘラヘラすんな、本当に。(別の先生の音声)ヘラヘラあくびしたり。そういうのを学んできたのか、ボケ。ニヤニヤしたり、ヘラヘラしたりよ」
裁判でも、この音声は遺族側によって証拠として提出されている。この日は第1回口頭弁論ということもあり、遺族側の親族や知人らが傍聴席を埋めたが、被告側は欠席。そんな中で、アカネさんが約20分間、意見陳述をした。被告側はすでに答弁書を提出しており、棄却を求めて争う姿勢を示している。
調査委員会の報告書では、複数の生徒によるA教諭の指導時の態度について証言が記録されている。
怒鳴る、ものや壁を叩く、机や椅子を蹴る、ティッシュの箱を投げる、やかんを目の前に落とされてやかんを蹴る、といった行動がみられたことが挙げられている。A教諭は一部を否定しているが、「大声を出す」行為は同僚教師からも情報が得られ、A教諭本人も自覚していたとされている。生徒たちは「考えさせるような指導になっていない」との評価で、乱暴な命令的な口調も指摘されていた。
意見陳述でアカネさんはこう話した。
「当日の午後5時40分、仕事中に電話が鳴りました。担任の先生からでした。『サトルくんがカバンを学校に置いたままいなくなりました。どこへ行ったか知りませんか? 宿題を出していなくて残していたらいなくなりました。どこか行きそうなところは、心当たりありませんか?』。一方的で心配しているような言い方ではなく、とても威圧的で、私も責められているような気持ちになりました」
「『とにかくお願いだから起きて』と泣き叫ぶことしかできませんでした」
その後アカネさんが自宅に戻ってみると、学校の近くだったためもあり、A教諭が自宅の前で待っていた。自宅に入ると、サトルさんは首をつってすでに死亡していた。
「私は変わり果てた息子を目の前に、『とにかくお願いだから起きて』と泣き叫ぶことしかできませんでした。A教諭が『みんな一緒だったんです』と私に向かって叫んだのを覚えています。その意味はわかりませんでした。息子と最後に話したのは担任の先生なのだから、当然何かしらの説明があると思っていました。
しかしその日担任や学校からの説明は一切ありませんでした。学校で職員会議をしていたようです。発見時に現場にいたA教諭は『ごめん、サトルくんごめん』と叫んでいたことや、警察官に2度にわたって事情聴取を受けていたことがのちに分かりました」
後にサトルさんの告別式が開かれた時、集まった同級生たちは口々にA教諭の責任を糾弾していた。「A、出てこい」「A、許さない」「A、逃げるな」と、遺された生徒たちの叫び声が響き渡ったという。
しかしサトルさんの死後、学校は遺族に説明も相談もなく、報道機関に対し「進路に悩んでいた」と説明していた。
「息子は成績も上がっていて、進路に悩んではいませんでした。『(進学を希望する高校の)寮の目の前が海だから、休みの日は釣りができる。僕は船の免許を取って船を買う』と友人にも話しており、夢を持っていました。勝手に我が子が進路に悩んでいたなどと言われ、この時はもう不信感が増すばかりでした。何があったのか事実を知らなければいけないと思うようになりました」(アカネさん)
A教諭は市の教育委員会の別の部署に異動
後に発表された調査報告書では、A教諭の指導について、「自死に影響を与えた可能性は否定できない」と、因果関係を示唆している。
その上で、(1)大声などで生徒に恐怖感情を与え、教師の意に沿う行動をさせる指導、(2)宿題を自宅にとりに帰らせる指導、(3)スタンプラリー(同じ件について1人の教師からの指導が終わるとサインをもらい、さらに別の教師からの指導を次々と受けていく仕組み)、などは改善すべきとしている。
教師による不適切な指導について、文部科学省は近年課題意識を強めている。2022年12月には、生徒指導の基本書「生徒指導提要」も改訂されている。
その中の「懲戒と体罰、不適切な指導」の項目では、「大声で怒鳴る」「感情的な言動で指導する」など7つの具体例が掲載され、「不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる場合もある」と記された。
さらに、2022年度の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」でも、「自殺した児童生徒の状況」の項目に「教職員による体罰、不適切指導」が加わっている。
サトルさんの担任だったA教諭は市の教育委員会の別の部署に異動した。裁判所は、A教諭の責任を認めるのだろうか。次回の口頭弁論は4月18日に開かれる。
(渋井 哲也)

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