13人が死亡し、6000人以上が負傷した地下鉄サリン事件から今月20日で29年となる。事件を起こしたオウム真理教の後継団体主流派「Aleph(アレフ)」などは東海地方で現在も活動を続け、教団名を伏せて入信者の勧誘も行っている。事件や教団の実態を知らない若者らが入信する例も増えており、警察や大学が注意喚起に力を入れている。(小池拓海、戸田貴也)
今年1月。アレフ信者が暮らす名古屋市中区のマンションに愛知県警の捜査員が捜索に入ると、祭壇に置かれたオウム教祖の麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚(執行時63歳)の写真が見つかった。室内には録音された元死刑囚の説法が流れ、多数の著書もあったという。
オウム同様、アレフの信者も出家して家族らとの関係を絶つ例が相次いでいる。信者の親によると、子供が大学生時に無料のヨガ教室に勧誘され、何度か教室に通ううちに音信不通となった。教室はアレフ信者が運営し、子供は現在、集団生活を送る出家信者となったとみられる。
支援者によると、アレフは「教団外の人と接触すると修行の成果が落ちる」と信者にかたり、家族らとの連絡を絶たせているという。ある信者の親は取材に、「我が子は10年以上も実家に戻らず、教団に拉致されたのと同然だ」と嘆く。
公安調査庁の調査によると、アレフなどオウム後継の3団体を合わせた現在の信者数は全国計約1650人に上り、東海地方でもアレフやそこから分派した「ひかりの輪」の教団施設が確認されている。
愛知県警によれば、アレフは勧誘の際には教団名を隠し、ヨガ教室や自己啓発サークルなどへの参加を誘うのが常だ。それから段階的に距離を詰め、最後に教団名を明かして入信を促すという。
勧誘の過程では「サリン事件はオウムを陥れるための陰謀だ」などと洗脳めいた説明をすることもあるといい、県警の奥谷俊之・警備部長は「アレフ信者は今も元死刑囚を『尊師』と呼び、絶対帰依を求め続けている。教団名は変わっても本質は同じだ」と指摘する。
捜査関係者によると、2022年までの4年間にアレフなど3団体へ新たに入信したのは約250人。うち6割が20歳代とされ、30年前の1994年に起きた松本サリン事件や、翌95年の地下鉄サリン事件を知らない人も多いとみられる。
各大学では新入生らに、カルト宗教による勧誘への対策を講じている。名古屋大と岐阜大を運営する「東海国立大学機構」は、学生に正体を隠して勧誘するカルト宗教などに注意を促すアニメーション動画を作成し、ホームページなどで公開している。名城大も新入生の説明会で宗教勧誘などへの警戒を呼びかける。
県警もSNSなどを通じてオウムによる凶悪事件を紹介したり、啓発ポスターを各駅に掲示したりして注意喚起に力を入れる。県警公安1課の奥田恭久次長は「誰もが勧誘される可能性があることを頭に入れ、不審に感じたことがあればすぐに警察などに相談してほしい」と呼びかける。