政府・自民党が、国政復帰の臆測が出ている小池百合子東京都知事の動向に気をもんでいる。「政治とカネ」を巡る問題で自民に逆風が吹く中、岸田首相(自民党総裁)周辺は、小池氏の圧倒的な知名度で政権が揺さぶられる事態に警戒感を強めている。自民内からは、小池氏の国政復帰に賛否両論が出ている。
首相は30日、東京都内で開かれた電気自動車の国際レース開会式で、小池氏と顔を合わせた。首相が到着すると、小池氏は握手を求め、会場内を2人で肩を並べて歩く場面もあった。
開会式への首相出席は、小池氏側からの強い求めで実現したという。複数回の出席要請があったといい、政府内では「国政復帰を直接伝えるつもりかもしれない」(高官)と疑心暗鬼が広がった。小池氏は開会式後、首相との会話内容を記者団に問われると、「(首相に)『いい天気でよかった』と言っていただいた」とけむに巻いた。
首相側が警戒するのは、小池氏が7月の都知事選に出馬せず、次期衆院選に立候補するというシナリオだ。首相は、力を入れる賃上げと、6月からの所得税などの減税実施で政権立て直しを図る青写真を描く。だが、直後に小池氏が国政復帰を打ち出せば、「国民の期待感を一気にさらわれる。党内でも岸田降ろしが始まりかねない」(首相周辺)との危惧がある。
衆院東京15区補欠選挙(4月16日告示、同28日投開票)に小池氏が電撃出馬するという「奇策」への懸念もある。小池氏は、自らが特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」が国政進出を目指して設立した「ファーストの会」から作家の乙武洋匡氏が出馬予定だとすでに発表している。仮に小池氏が補選で当選し、古巣・自民への復党を望めば、秋の総裁選で再選を目指す首相にとっても大きな障害となる可能性がある。
一方で、自民内の声は複雑だ。小池氏は2017年衆院選で希望の党を率いて自民に対抗した。小池氏が野党の立場で国政復帰を目指せば、「大きな脅威になる」(自民幹部)との声がある。小池氏が自民に戻った場合は、「初の女性首相」を掲げることで、次期衆院選を有利に戦うことができると期待する向きもある。自民中堅は「小池氏は自民党再生の切り札になる」と語る。
都議会で小池氏と良好な関係を築く公明党は、事態を静観する構えだ。公明幹部は、「カードを常に持っているのは小池氏だ。今は見守るしかない」と話す。
立憲民主党の泉代表は30日、埼玉県狭山市で記者団に「(小池氏は)与党なのか野党なのかはっきりしてもらいたい」と述べた。