「地元住み続けたい」9割、浮かび上がる住民の深い絆 仮設入居者らへの本紙アンケート

能登半島地震の仮設住宅入居者らを対象に産経新聞が行ったアンケートでは、9割近い被災者が地元に「住み続けたい」との意向を示した。被災者の回答からは、地震で甚大な被害に見舞われながらも、住民同士の深い絆が地元への愛着につながっている一方、今後の生活に不安や迷いが尽きない状況も浮かび上がった。
産経新聞は3月26~27日、元日の能登半島地震で甚大な被害があった輪島市と珠洲市、能登町、穴水町、七尾市で、応急仮設住宅の入居者と入居予定者にアンケートを実施。10~90代の男女106人から回答を得た。
アンケートでは、「地元に住み続けたいか」との質問で、明確な「はい」「いいえ」の回答だけでなく、迷う場合の「どちらかといえば」の選択肢を設けた。明確に住み続けるとの回答は71人(67%)、迷った末に住み続けるとしたのは23人(21・7%)で、住み続ける意向は合わせて計94人(88・7%)だった。
明確に住み続けると答えた七尾市の無職、泉幸彦さん(66)は「息子からは金沢に来るよう勧められるが、地元で暮らして恩返ししたい」と強調。穴水町の無職女性(75)も「地域で仲良くしていて、知った顔がいる安心感がある」とした。能登半島ならではの住民同士の深いつながりがうかがえ、現状の不安を複数回答で聞いた設問でも「地域・近所との途絶」を挙げたのは10人(9・4%)だけだった。
激震の恐怖「また家潰れるかも」
一方、明確に住み続けたくないという回答をした輪島市の主婦、小島ハナエさん(86)は「また大きい地震が起きると思うと、怖くて地元で暮らしたいとは思えなくなった」と、激震の恐怖を理由に挙げた。住み続けると回答した人にも迷いはあり、珠洲市の無職、鹿子田俊彦さん(77)は「また家を建てても地震で潰れてしまうかもしれない。心配は尽きない」と吐露した。
地元に残りたいという被災者も金銭面などで不安を感じている。現状の不安に関する質問で、複数回答から「生活資金」を選んだのは22人(20・8%)。珠洲市の坂口正造さん(70)は「預貯金がなく、家財も(壊れた家から)取り出せていない。今後の資金をどうすればいいのか」と明かした。
高齢者らにとって健康も大きな問題だ。不安に関する設問で「自身の体調・健康」を選んだのは19人(17・9%)、「家族の健康問題」は10人(9・4%)。両方とも不安とした能登町の70代主婦は「私も通院があり、夫も入院している。離れて暮らす息子のところで世話にはなりたくはない」と力なくつぶやいた。
また、現役世代を中心に不安として「仕事の継続、就職」11人(10・4%)、「子供の教育環境」4人(3・8%)も挙がった。能登町の仙福歩美さん(35)は「副業のエステを春から本業にするつもりだったが、若い人が離れて需要があるのか」と漏らした。輪島市の40代主婦は「3人の娘や息子は(転居などをした)友人と離れてしまった。今後、進学などに影響がないか心配だ」と明かした。
断水の避難生活「トイレ・風呂」に苦悩
能登半島地震では断水の解消に時間を要している。アンケートでは避難生活の困りごとを複数回答で聞いたが、トイレや風呂など「生活用水の確保」が最多の59人(55・7%)に上るなど、水に関する回答が多かった。
輪島市の主婦、里谷千枝子さん(81)は、避難所で他人の排便を流せないまま用を足さなければならず、「トイレに行くのが嫌になった」とした。珠洲市の70代男性は「自衛隊が設けた風呂にお世話になるまで入れなかった」と、風呂に関する意見も目立った。ただ、飲料水に困ったとの回答は10人(9・4%)と少なく、給水態勢は早期に整っていたようだ。
困りごととして、生活用水に次いで多かったのが「健康・体調管理」で29人(27・4%)。珠洲市の無職女性(61)は「地震で通院していた金沢の病院に行けなかった」と不安を訴えた。「プライバシー」も23人(21・7%)で、珠洲市の70代男性は避難所生活で「生活音がどうしても気になり、寝不足になってしまった」とした。
主な避難先としては「地元の1次避難所」が47人(44・3%)で最も多く、被災地外の親戚や知人宅などが22人(20・8%)で続いた。災害関連死を防ぐため国や石川県が被災地外のホテル・旅館を使って大規模に実施した「2次避難所」は14人(13・2%)で、3番目に多かった。
避難先では、孤独感や喪失感から悩みも生じ、富山県の孫宅に身を寄せた珠洲市の無職、辻久子さん(80)は「知らない土地なので、なじめるか不安だった」と明かした。2次避難所で過ごした珠洲市の無職、蔵正一さん(75)は「被災前は畑仕事に精を出したが、避難先ではボーっと一日を過ごすだけだった」と語った。
2次避難の孤独感解消を 立木茂雄同志社大社会学部教授(福祉防災学)
今回の調査で注目したいのは、「地域・近所との途絶」に不安を訴える人が全体の9・4%に過ぎないという点だ。これまでの災害と比べて非常に少ないと感じる。
阪神大震災や東日本大震災では、地域住民がばらばらに仮設住宅へ入り、従前の人間関係が崩れて大きな課題だった。だが、能登半島地震では、地域の関係性を維持して仮設住宅の入居を進めていることが数字にも表れ、復興を見越した優れた取り組みといえる。
災害関連死を防ぐ手立てとして大規模に行われた「2次避難」の経験者が1割を超えたことにも目を見張る。だが、避難先での孤独感を訴える意見もあり、今後、2次避難所では伴走型支援の充実を考えなくてはいけないだろう。
地元に残りたい意向は強いが、復興に向けては、能登半島は高齢化率が約50%と高く、被災で要介護認定率がさらに高まることを考慮しなければならない。仮設住宅の団地内で築かれた互助関係を保ったまま災害公営住宅に移り、そこで集約的に介護やケアを行うことも選択肢にすべきだ。

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