岸田文雄首相は28日、2024年度予算成立を受けて官邸で記者会見を開いた。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記との会談について、「引き続き、私直轄のハイレベルでの対応を行っていきたい。拉致問題をはじめとする諸懸案解決に向けて動かしたい」と語った。拉致被害者や被害者家族が高齢化するなか、日朝首脳会談による「全被害者の即時一括帰国」が期待される。ただ、北朝鮮側は「拉致問題は解決済み」という主張を取り下げていない。外交は機を逃してはならないが、成果を焦って急いては事を仕損じる。ジャーナリスト、長谷川幸洋氏が、岸田首相が模索する訪朝計画の危うさに迫った。
北朝鮮の金正恩総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長が岸田首相のを一方的に暴露したかと思えば、翌日には一転して「交渉を拒否する」と発表した。この展開をどうみるか。
与正氏は25日、談話で「岸田首相から『できるだけ早い時期に直接、会いたい』という打診があった」と発表した。与正氏は「(日本が)拉致問題に没頭するなら、首相の(訪朝)構想は人気取りに過ぎない。これ以上、解決することはない」と牽制(けんせい)している。
これに対して、林芳正官房長官が「まったく受け入れられない」と反論すると、与正氏は翌日、「日本側とのいかなる接触も交渉も無視し、拒否する」と応じた。以上が、これまでの経過である。
なぜ、与正氏は、岸田首相の訪朝打診を暴露したのか。
実は、彼女は1カ月前の2月15日にも、日朝関係について前向きに語っている。「あくまで個人的な見解」と断りながら、「拉致問題を障害物としなければ、首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得る」と表明していた。
「キューバと韓国」国交樹立に反応
岸田首相は2月9日、衆院予算委員会で日朝関係の現状を変える必要性を語っていた。そこから、「北朝鮮は首相発言に反応した」という見方も出たが、それは甘い。
そうではなく、私は「北朝鮮は2月14日に発表された、キューバと韓国の国交樹立に反応した」とみる。
北朝鮮にとって、キューバは数少ない友好国、兄弟国だ。それが仇敵の韓国と国交を結ぶとは、大ショックだったに違いない。反米の同志であるキューバが韓国に接近したとなれば、自分も日本との関係改善に活路を見いだそうとしても不思議ではない。
今回、与正氏が日本にボールを投げてきたのは、それほど日本との関係改善を切望している証拠とみるべきだ。