「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん=当時(77)=に対する殺人罪などで起訴された元妻の須藤早貴被告(28)。殺人罪の裁判のめどがたたない中、事件前に別の男性=当時(61)=から現金をだまし取ったとする詐欺罪の裁判が、和歌山地裁で始まった。野崎さんの死から間もなく6年。逮捕後初めて公の場に立つ須藤被告の言動に注目が集まった。
黒いワンピース姿で出廷
「須藤早貴でーす」
黒色のワンピースの上に黒色の長袖カーディガンを羽織り、マスク姿で出廷した被告。証言台の前に座り、裁判長から名前を尋ねられ、軽い調子でこう名乗った。
続いて起訴内容の認否を問われると、腰までのロングヘアを耳元でわずかにかき上げ、静かに口を開く。「お金を受け取ったことは事実でをつきましたが、(被害男性は)それを分かったうえで、私の体をもてあそぶためにお金を払ったと思います」
詐欺罪は単に金を受け取るだけでなく、被害者側が「だまされて勘違いしていた」状況があって初めて成立する。弁護側はこの「錯誤」がなかったと主張。男性が金を支払ったのは「被告との性的接触や心理的支配感を得たいから」だったと訴えた。
エスカレートした嘘
検察側の冒頭陳述などでは、被告が被害男性に資金援助を持ちかけた状況が明らかにされた。
札幌市内の美容専門学校に通いながらキャバクラに勤務していた被告は、平成26年10月頃、客だった男性と知り合った。「親に反対されていて、アルバイトをして学費を自分で払っている」。当初から男性にこうをついており、親しくなった男性は「学費を払うからバイトをやめていい」と持ちかけるようになった。
同年末に実際にアルバイトをやめた被告の「」は翌27年以降、エスカレートする。
「練習中に学校の機械を壊してしまい、300万円を弁償しないといけない」
「美容関係の会社の社長に認められ、海外留学できる。準備金の1500万円を支払わなければ話はなくなる」
「出場したコンテストでモデルの髪を傷めた。慰謝料として1500万円を要求されているので助けて」
男性は求めに応じ続け、支払総額は約2980万円に上った。
浪費の果てに
男性と知り合ってから、高級ブランドの服やカバンを身に着ける様子が目立つようになった被告。27年~28年の2年間だけで、フランスやモルディブ、シンガポールなど7カ国への海外旅行の代金を支払っていた。
特待生試験を受けて専門学校に入学し、当初は教員からみて「美容師になる意欲が強かった」というが、「美容師にはならない。東京に行きたい」などと公言するようになっていたという。
ただ、浪費の結果か、男性が多額の金を振り込んだはずの口座の残高は28年12月時点で、約6万円となっていた。
時折、目を閉じながら、検察側の主張に耳を傾けていた被告は今後、何を話すのか。今後の公判では証人尋問や被告人質問が予定され、9月に判決が下される予定だ。
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被告は当時19歳だったが、家裁送致時点で20歳以上だったため検察官送致(逆送)され、起訴された。
被告は、30年5月24日に殺意を持って致死量の覚醒剤を野崎さんに摂取させて殺害したとする殺人罪などでも起訴。被告と野崎さんは同年2月に結婚したばかりだった。
野崎さん殺害事件については、令和3年5月の起訴から約3年が経過しているが、いまなお裁判官と検察側、弁護側が争点や証拠を絞り込む手続きを進めているとみられる。