ビールに日本酒、焼酎の水割り-。すべてを飲酒したのちにハンドルを握った男の車が、自転車の男性と衝突する事故があった。男性は自転車ごと引きずられ、死亡。危険運転致死罪に問われた男の裁判員裁判で今月、懲役13年を求刑した検察側に対し、男は飲酒運転を認めたものの、無罪を主張した。その理由とは-。
「気づかず」帰宅
「自転車にぶつけた記憶はありません」
5月8日、東京地裁(江口和伸裁判長)で開かれた裁判員裁判の初公判で、危険運転致死罪に問われた白鳥功二被告(71)は起訴内容について問われ、こう答えた。弁護人も「無罪を主張する」と述べた。
事故は令和4年12月4日午後3時15分ごろ、東京都練馬区内で発生。幅3・7メートルの道路だった。
起訴状によると、酒を飲んだ被告が運転するワゴン車と、左側を並走していた田畑和雄さん=当時(79)=の自転車が衝突。自転車は車の左後輪と車体の間に挟まれ、自転車は1キロ、田畑さんは285メートル引きずられ、搬送先の病院で死亡が確認された。
被告はそのまま帰宅。被告人質問では引きずったことについて「警察署での事情聴取で映像を見せられて初めて知った」と語った。
2度の飲酒
被告が危険運転致死罪で起訴されたのは何度も酒を飲んでいたからだ。
1度目は事故当日午前10時ごろ。区民館で開かれた60歳以上の地域住民の集まりだった。飲んだ量には検察・弁護側で争いがあるが、被告はビールをコップ1杯と日本酒をコップ半分ほど飲んだと公判で説明している。
被告は一度徒歩で帰宅したが、自宅から車に乗って同日午後1時45分ごろに常連のカラオケスナックへ。飲酒運転だったことは被告も認めており、ここで2度目の飲酒に及ぶことになる。
店主の女性は証人尋問で、被告が酒をこぼしたり、大声を上げたりしていたため「かなり酔っ払っている」と思い、タクシーを呼んで帰宅を促したと証言した。
被告はタクシーに乗らず、徒歩で移動する様子が防犯カメラに映っている。その後、車に乗り、事故が起きた。
「酔ってない」
無罪を訴えるのは、どんな理由によるのか。
危険運転致死罪の成立には①酒の影響で「正常な運転が困難な状態」だった②被告の運転が原因で被害者が死亡した-などを立証する必要があるが、被告は「自分では酔っていないと思った」などとして、争っている。
①について検察側は被告がスナックを出た際の歩き方や、駐車場で車を出庫する際に時間がかかっている様子から「正常な運転は困難だった」と強調する。
事故後の被告の呼気検査では、酒気帯び運転の基準を超えるアルコール量が検出されている。
ただ、検査は事故の2時間半後。事故と検査の間にさらにビールを1リットル飲んでいるため、事故直後の状態は分からない。
②の事故原因について、検察側は被告の車が路側帯にはみ出してぶつかったと主張する一方で、弁護側は、田畑さんが電柱を避けて衝突したと反論。衝突時点で致命傷を負った可能性が高く、被告が事故に気づけても田畑さんは助からなかった、としている。
判決は27日に言い渡される。(橘川玲奈)