代表的な生活習慣病の一つである高コレステロール血症(高脂血症)は世界的な現代病で、動脈硬化の原因となり心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高める。東京農工大特別栄誉教授の遠藤章さんが発見したスタチンは、特効薬として広く使われ治療を革命的に進化させた。人類の健康への大きな貢献から、ノーベル賞の受賞も期待されていた。
1960年代に米国で増え始めた高コレステロール血症は、脂っこい食事と運動不足が主因だ。経済成長に伴い各国の生活が豊かになるにつれ、患者は増え続け世界規模の問題になった。
治療法は食生活の改善と適度な運動程度だったが、スタチンの登場で状況は一変し、手軽にコレステロール値を下げられるように。忙しい現代人にうってつけで、即座に「世界で最も売れる薬」に成長し、世界で4千万人以上が服用している。
コレステロールは、化学反応を促進する酵素という物質によって肝臓で作られる。遠藤さんは、酵素の働きを阻害する物質を見つければ、コレステロールの生産を抑制できるはずだと考えた。当時の欧米では、ある機能を持つ物質を探す場合、既知の化合物の検証や、新たな化合物の合成が最新鋭の手法だった。だが遠藤さんは、カビやキノコなどの微生物から探す古典的手法を選択。含まれる物質を丹念に調べ、欧米勢を尻目に青カビの中から見事に「奇跡の薬」を探し当てた。(伊藤壽一郎)