東京地検特捜部が乗り出し…“超一流弁護士”34人から約8700万円を詐取した税理士は「有名作家の息子」たった

自民党派閥の裏金事件の捜査以降、鳴りを潜めていた東京地検特捜部。そんな中、日本最強の捜査機関が6月5日に逮捕を発表したのは、弁護士を相手に詐欺を働いたとされる人物だった。この男、一体どんな“大物”なのか――。
◆ ◆ ◆
「共済の掛け金に充てる」と虚偽のメールを送信
特捜部が詐欺の疑いで逮捕したのは、笹沢知夫容疑者(63)。東京都新宿区で会計事務所を設立し、活動していた税理士だ。
司法担当記者が解説する。
「笹沢は2022年4月から11月にかけて、税務顧問契約を結ぶ法律事務所の弁護士に対し、『共済の掛け金に充てる』などと記した虚偽のメールを次々と送信。自身の口座に金を振り込ませ、計約8700万円を詐取したとされます」
騙されてしまった弁護士の数は実に34人。しかも、全員が同じ事務所に所属しているという。看板に傷がつきかねないほど大規模な詐欺被害を受けたのは、どこの事務所なのか。さる法曹関係者が打ち明ける。
「特捜部は発表していませんが、被害に遭ったのは『森・濱田松本法律事務所』(以下、森・濱田)の弁護士たちなんです」
森・濱田と言えば、日本の法曹界をリードする“四大法律事務所”の一角。所属弁護士数は751名にも上る(今年6月現在)。ヤメ検弁護士も多数在籍しており、証券取引等監視委員会の委員長を務めた長谷川充弘氏や、前検事総長の林眞琴氏も所属している。
「それゆえ、今回の詐欺事件を警視庁ではなく東京地検特捜部が手掛けているのは、林さんが古巣の検察に一声かけたからではないかと噂されているのです」(前出・司法担当記者)
「その話まったく知りません」
実際のところはどうなのか。林氏に聞いた。
――特捜部に声掛けを?
「私、その話まったく知りません。ということで反応ができません。新聞やテレビの報道を見て知っただけで、森・濱田かどうかも全く聞いていませんので」
――ご自身が被害には?
「まったく。こういう話がそこに繋がるってことですらサプライズです」
森・濱田に事実確認の質問状を送ったが、期限までに回答はなかった。
では、“超一流弁護士34人”を手玉に取った笹沢とは何者なのか。
父はテレビドラマ化された著作もある有名作家
出版関係者が証言する。
「実は、逮捕された男は小説家の笹沢左保さん(02年没)の息子なんです」
笹沢左保は、テレビドラマ化もされて大ヒットした「木枯し紋次郎」シリーズをはじめ、推理、時代、風俗小説を幅広く執筆。刊行した単行本は377冊を数え、その多作ぶりも有名な作家だ。
「でも、息子の知夫は文学の道へは進みませんでした。彼は、進学校として有名な都内の私立高校から明治大学に進学し、卒業後の1991年に税理士試験に合格。事務所を開いた翌年の93年には、結婚した奥さんとの間に娘さんが産まれ、幸せな家庭を築いているように見えました」(同前)
自宅や実家を担保に借金を繰り返し…
その後、笹沢は97年に会計事務所とは別の医療コンサル会社を学生時代の友人らと設立し、新たな事業に手を伸ばしていく。
知人が言う。
「彼が始めたのは、診療科目や症状に合わせて日本全国15万件以上の医療機関が検索できる情報サイトでした。ネット黎明期の当時としては画期的なアイディアで、会社の経営も上手くまわっていたようです」
だが、19年頃から笹沢は、東京都小平市の自宅マンションや父・左保が残した実家を担保に各所から借金を繰り返すようになる。
「それでも新型コロナの影響で、サイトの訪問者が増え、広告収入が大幅にアップ。21年の売上高は4億円を超え、調子に乗って翌22年3月に新たな不動産コンサル会社を立ち上げたのです」(同前)
しかし、再び資金繰りが悪化したのだろうか。この頃から笹沢は弁護士相手に虚偽のメールを送るようになり、昨年7月には自宅マンションを売却。逮捕時には、父の残した築50年を超える実家で暮らしていたようだ。実家のインターホンを鳴らすと、笹沢の妻が対応した。
――特捜部に逮捕された件に心当たりは?
「まったくないです。私は何も知らないので」
――お金に困っていた?
「いや、それも全然分からない。とにかく何も分かりません。ごめんなさい」
息子の逮捕を、泉下の父はどう思っているのか。
「あっしには関わりのねえことでござんす」
紋次郎の決め台詞が虚しく響くばかりである。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年6月20日号)

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