研究も観光も…「欧州の頂上」アルプスの高地施設で感じた中韓の存在感と日本の希薄さ

スイス・アルプスの名峰を臨む高地にあり、環境や気象に関するデータを収集する研究施設「ユングフラウヨッホ高地研究所」。気候変動抑制の国際的取り組みを支える重要拠点で、周辺は観光地として賑わう。スイス連邦外務省主催のメディアツアーで今春、現地を訪れたが、そこで感じたのは存在感を増す中国・韓国と、それと裏腹な日本の「希薄さ」だった。
相次ぎ財団加盟
1931年に開設された同研究所は、当初は天文学や放射線研究が主だったが、現在は氷河調査や高山病研究のほか、温室効果ガスを含む大気組成の観測や気温、降水量、雲の状態などの気象データも収集。地球環境保護の「砦」としての役割も果たしている。
国際的な財団が研究所の運営を担い、世界中の研究機関が連携し年間約50の研究プロジェクトが進められている。財団加盟国はオーストリアやベルギー、英国といった欧州の国々が主だが、2020年には中国、今年は韓国が加わった。
「中国は、高山病や高地滞在が心臓病患者にどのような影響を与えるかといった問題に関心があるようだ。ヒマラヤ山脈に観測基地を建設するなど、気候問題にも取り組んでいる」。同研究所の所長でベルン大教授のマークス・ロイエンベルガー氏(気候・環境物理学)はこう話す。
韓国はレーザー通信のプロジェクトを開始しており、同研究所とベルン大近くの拠点の間で、実証実験を行っているという。
これに対し日本は、プロジェクト単位で研究者が参加しているケースはあるものの、国として財団のメンバーには名を連ねていない。
ロイエンベルガー氏によると、1949年にノーベル生理学・医学賞を受賞したスイスの生理学者で、研究所の初代所長を務めたヴァルター・ヘスは日本の科学者に多くの人脈を持っており「日本が創設メンバーとして参加できないか調べていた」という。
気候危機への取り組みで立ち遅れが指摘されている日本だが、1世紀を経てこの研究所でも中韓に先を越された格好だ。
飛び交う中国語
同研究所は欧州で最も高い場所にある鉄道駅「ユングフラウヨッホ駅」(標高3454メートル)に直結しており、山岳リゾートとして有名なスイス中部の村、グリンデルワルトからロープウエーと鉄道を乗り継いで1時間ほどかかる。
同駅に隣接して作られた複合施設「トップ・オブ・ヨーロッパ(欧州の頂上)」は、アルプスの氷河を見下ろす展望台や、氷河の中に作られたトンネルなどがある人気観光地だ。運営会社によると昨年は特にアジアからの客が増え、訪問者数は100万人を超えたという。
土産物店では中国語が飛び交い、展望台には大人気の韓国ドラマ「愛の不時着」の撮影地であることを示す記念スポットもあった。同ドラマはスイスでの撮影が多く、最終話の1シーンに研究所最上部のスフィンクス天文台と展望台が映る。
多くのアジア系観光客が記念撮影に興じる同駅のエントランス付近に、見慣れた赤い丸型の郵便ポストがあった。ユングフラウヨッホ山頂郵便局と姉妹提携する富士山五合目簡易郵便局から、友好の証として寄贈されたものという。
撮影に夢中な彼らは、ポストの由来も日本とスイスの関係性もよく知らないのではないだろうか。研究と観光、両面での日本の存在感の薄さに危機感を感じつつ、山を下りた。(スイス・ユングフラウヨッホ 松田麻希)

ユングフラウヨッホ高地研究所 アルプス山脈のうちスイス中央部に広がるベルナー・アルプスの尾根にある研究施設。敷地内にある最上部の「スフィンクス天文台」は、標高3500㍍を超える。気候や環境のほか物理学、化学、地質学、氷河学など、さまざまな研究プロジェクトが進められている。

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