定額減税の実感はみなさんどうだろうか。岸田文雄首相は「賃上げや定額減税の効果がだんだんと出てきている」と関係者に発言したという。
「増税派」と世論からみなされていた首相にとって、定額減税は起死回生の政策のはずだった。しかし減税政策を表明した頃からむしろ支持率は低下していった。
保守のコア支持層は、「LGBT理解増進法」のあまりにずさんな内容にげんなりし、政治資金問題はワイドショーなどで煽(あお)られやすい層を中心に支持離れを加速した。
定額減税の仕組みは複雑で、給料明細を確かめても実感に乏しいものになった。それでも可処分所得が多少は増えているので、今夏を中心に消費の増加がみられるだろう。だが、夏の終わりとともに減税効果は消失する。まるで線香花火のようにはかなげだ。
岸田首相としては、まだ総裁選での再選を諦めていないので、夏の間だけでも減税効果があるのはいいことなのだろう。電気代やガス代の補助も復活させるなど、政権の延命としか思えない政策を打ち出している。ただ他方で再エネ賦課金も増加しているので、電気代が減少してもやはり実感に乏しいものになる。
再エネ賦課金自体の廃止、または消費税減税のような本当の国民目線に立った大胆な政策は、岸田首相の選択肢にはない。あくまでも政権の延命策であることが、国民からまるわかりである。
延命策でも国民にとって正しい政策ならばまだいい。だが、岸田政権の経済政策は基本となる軸がないことで、「いまは減税するが将来は増税・負担増がある」といった将来への不安を招いている。
政府の経済政策の基本方針を議論している経済財政諮問会議が、今年度の「経済財政運営と改革の基本方針」(案)で、冒頭にデフレの完全脱却を掲げている。だが、この目的を実現するには、政府だけでなく、日銀の協力が必要である。だが、岸田首相が任命した植田和男日銀総裁は、利上げに積極的だ。減税の一方で金融引き締めでは、話にならない。
菅義偉前首相が、政治資金問題での岸田首相の責任を指摘した。「ポスト岸田」の事実上の号砲だろう。だが、自民党でデフレ脱却をやりとげるまともな経済政策を実現できる人材はどれだけいるのだろうか。緊縮派であり、金融政策に理解のない石破茂元幹事長や河野太郎デジタル相らが意欲をみせている。上川陽子外相や茂木敏充幹事長は経済政策の軸が不明で、いってみれば「ミニ岸田」でしかない。
菅前首相や高市早苗経済安保相は、マクロ経済政策への理解があり人気もあるが、本人の意思や党内の支持が不透明である。ただし、岸田首相の続投にでもなれば自公政権の終わりにつながる。 (上武大学教授・田中秀臣)