※本稿は、杉山大志ほか『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社)の原文を元に一部を再編集したものです。
2016年7月31日、「グリーン旋風」を巻き起こし、自民党推薦候補から100万票以上の大差をつけた東京都初の女性都知事が誕生しました。
その名は「小池百合子」。
就任早々、「都民が決める。都民と進める。これが私の目指す都政の姿であります。常に都民ファーストで、透明性を高め、皆様の理解を得ながら『都民の、都民による、都民のための都政』を行ってまいります」と表明しました。
当時、都政は「自民党ドン政治」と呼ばれる旧態然とした利権主導の「古い政治」がまかり通っており、新人議員であった私も相当に手を焼いていたことから、都議会で唯一、いの一番に名乗りを上げて彼女を応援してしまいました。
都民も「東京大改革」で世の中が変わると期待と希望を寄せたことでしょう。
あれから8年……。その小池知事が何を行ったかといえば、新築住宅太陽光パネル義務化設置条例の可決・成立。「再開発」「再整備」の名のもとに、人々の憩いの場である神宮外苑や各地の都立公園の樹木を次々と伐採。
長年親しまれた風景を壊し、悪趣味な建造物を建て続けるなど、都民を顧みぬ独善的な施策を次々と打ち出しました。
結局、自分の政治生命ファーストで、再エネなど新たな利権のための都政を強引に進めた小池知事への希望は失望となり、今や絶望に変わり果てています。
2022年12月13日、政府との政策調整もせず、小池知事は功名を急ぎ突如として新築物件の屋根に太陽光パネル・充電設備の設置を義務付ける条例(東京都環境確保条例・2025年4月1日施行)を強行採決しました(賛成:都ファ・公明・共産・立民他)。
自由を守る会(上田)ともども、国政与党の都議会自民党も反対に回るという異例の事態に発展し、都民・国民から今日に至っても反対の声が上がり続けております。
まず、結論から申し上げますと、都民の皆様には設置の義務はなく拒否ができます。新築住宅を購入する場合、パネル設置建売を避ける、注文住宅であれば設計時に「太陽光パネル設置無用」と伝えればいいだけの話です。
一生の買い物であるマイホームをどうするかは小池知事が決めることではありません。
憲法第29条で、財産権は皆様に保障されており、設置を拒否しても条例違反などに問われることは絶対にありませんのでご安心ください。
設置義務が発生するのは、年間の総延床面積2万m2以上のハウスメーカー約50社であり、各社に課せられた設置目標を達成しないと企業名が公表されます。
「パネル設置を拒める」ということを積極的に説明すれば「義務化」ノルマが達成できなくなってしまいますから、メーカー側は必死に推奨すると思われますので、メーカーに何か言われたら「上田都議と相談して設置しないと決めた」と伝えてください。
2024年元旦に発生した能登半島地震直後、飛散した太陽光パネルへの感電につき、経産省から異例の注意喚起がなされました。首都直下型地震の不安を都民が抱えるなか、人口密集地の新築住宅に無数のパネルを載せる義務化条例の施行は2025年4月に迫ってきています。
直近でも、メガソーラー火災は頻発しています。
2024年1月には、和歌山県の山林で発生し、夜間の消火活動となりました。3月には、鹿児島県の消防士四人が爆発で負傷。内、一人は顔に大やけどを負っています。
4月に入り、北海道では下草1200m2が焼ける火災が発生。宮城県では太陽電池モジュールが約3万7500m2にわたって燃え続け、鎮火は約22時間後となったとのことです。
いずれも消火活動は感電の危険と隣り合わせという決死の作業となりました。
現在、消防団には絶縁性防護服の支給や対策の周知もされておらず、感電による死傷者が出た場合への想定が甘過ぎるのです。
消防庁が指示し消防隊員が消火にあたると、毎度都は答弁しますが、大地震に伴い同時多発的に災害が発生するのは阪神、東日本、能登で経験済みのはずです。
全部消防官で対応できるわけがなく、団員がやらざるを得ない現実から目を背け続けています。
それだけリスクのあるこの事業に、小池知事が言うところの「ゼロエミッション効果」はどれだけあるのでしょうか? 太陽光パネル導入で、どれほど東京都の気温が下がるのでしょうか?
実際のところ、気温低下は0.0000043℃しか期待できないことが判明しています。
これは環境・エネルギー研究の第一人者杉山大志氏に助言を受け、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表している「累積で1兆トンのCO2削減で0.5℃の気温低下が見込める」とのデータを基に試算してみた結果です。
この私の指摘に対し、「義務化によるCO2削減効果は2030年で年間43万トンを見込む」と環境局長は答弁するのみで、結局何度下がるか回答を避けました。
また「パネル設置後に先述した感電のような二次災害が発生し、死傷者が出た場合、あるいは二次災害の恐れから作業が遅れた場合、都は責任を負うのか」について小池知事の所見を伺うも、答弁拒否をしてゼロ回答であったことを指摘しておきます。
設置を義務付けたからには責任を免れないとの恐れからではないでしょうか。
ここで改めて、小池都知事の暴挙・太陽光パネル設置義務化の問題点を挙げてみましょう。
①都民に事実上拒否権があることを積極的に周知していない
②災害時の消火・感電対策をどうするのか(江戸川区などでは大規模水害が想定されており、パネル水没時や火災で放水する場合の感電対策が徹底されていない。消防団に消火方法が指導されていない)
③災害などで太陽光パネルを原因とした被害に遭っても、都はその支援・補償を明言していない
④パネルを設置しても気温低下に1℃も貢献しない
⑤長期的に採算が合わない(小池知事が言う「6年間で元が取れる計算」の中には、長年使用する付帯設備の交換や撤去・廃棄・更新費用などのコストが含まれていない)
⑥廃棄・リサイクル対策が確定していない(現在、リサイクル業者が全国にわずか38社しかなく、不法投棄の懸念が発生する)
⑦強制労働が疑われる、中国新彊ウイグル自治区製パネルが混入しかねない(米国はすでにジェノサイド製品の輸入を禁止する法律を施行しているが、日本ではいまだ法整備が整わず、都条例にも明記されていない。都民が知らぬうちに“屋根の上のジェノサイド”で人権侵害に加担していると国際社会で批判されぬか危惧)
「7つのゼロ」公約をほぼ未達成の小池知事は、この7つの問題点を解決する義務がある。「温暖化防止ではなく、むしろ、パネルがギラギラと気温上昇に貢献するのではないか?」と危惧する声も多数届いています。
2025年の施行までに世論形勢を行い、義務化改悪条例を改正する条例制定を目指したく、都民および専門家の皆様と力を合わせてまいります。
また、都が再エネ発電所などに投融資するファンドの第1号案件として、北海道豊富町で2024年3月2日に運転開始した風力発電事業に投資する件も看過できません。
ファンドの運営主体「TLDファンドマネジメント合同会社」(株式会社Looopにより設立。なお、本ファンドには東京都のほか、株式会社センコーコーポレーション、東銀リース株式会社、株式会社Looopが投資家として参画)と投資先の事業主体「豊富Wind Energy 合同会社」(Looopと中部電力が共同出資)について、どちらもLooop社が関与していることに即懸念を抱きましたが、「利益相反などの問題はチェックしたうえで投資判断している」と報道されていました。
そもそも、世界的にESGファンドが大暴落しているというのに、なぜ都民の血税を10億円も使って、利益相反が疑われる再エネファンドをやらねばならないのでしょうか。
都は「本ファンドは、都の出資を呼び水に民間資金やノウハウを引き出し、再生可能エネルギー発電所等の整備促進を図るもの」としていますが、都民生活の何に寄与するのかまったく理解ができません。
しかも、技術力を要する利益相反のチェックを誰がどう行うのか。出資金回収情報が非開示であるなか、出資金をいつまでにどうやって回収するのか。ファンド終了までに、支払い想定が運用益などを上回らないのか。また、公益が加わる投資プロジェクトの撤退時期の判断が鈍らないのか。疑問は尽きません。
これらを実際に質したところ、「ファンド運営は、専門性を有する事業者にゆだねつつ、都は定期監査など、外部専門家の助言を得ながら適切にモニタリングを実施する」との回答。
しかし、この「外部専門家」というのも胡散くさいこと、この上なし。新エネルギーファンドのベンチャー企業系専門家や、Looop社との相関関係にも、私は疑いの目を向けております。
また、国防上の観点からも問題があります。
2024年3月1日、政府においてもようやく、ミサイルや領空侵犯を監視する自衛隊や在日米軍のレーダー運用への影響を防ぐため、自衛隊施設の周辺を対象に、風力発電建設の事前の届け出や協議に関する規制をまとめた法案が閣議決定されました。
実際に防衛省ホームページの「風力発電設備が自衛隊・在日米軍の運用に及ぼす影響及び風力発電関係者の皆様へのお願い」には、「風車がレーダー電波を反射することにより目標(航空機、ミサイル、雲等)の正確な探知が困難になり、警戒巡視活動や部隊による迅速・適切な対処、航空機の安全な運行に支障をきたすおそれがある」との記述があり、風力発電が100km圏内でも悪影響を及ぼすことを示唆しています。
ところが恐ろしいことに、今回のファンド第1号予定地である豊富町は、僅か40km圏内に自衛隊稚内基地分遣隊や陸上自衛隊鬼志別宿営地があります。
防衛的に問題がないはずはありません。
私は北朝鮮・ロシアとの緊張関係を鑑み、国防こそ最優先すべきと考え、元防衛大臣である小池知事の所見を確認するも答弁拒否。
国防問題には一切触れずに、スタートアップ・国際金融都市戦略室長に「具体的な投資案件は、ファンドの趣旨を踏まえ、専門性を有する運営事業者が適切に選定」していると答えさせました。
結論からいえば、国防を度外視して「専門性を有する運営事業者(Looop社=新エネ事業者)」に決めさせたことを、図らずも吐露する結果となりました。
ますますもって監視を強めなければならない使命を痛感し、今後も効果不明の環境・新エネ政策を厳しく追及してまいります。
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(地域政党自由を守る会代表、東京都議会議員 上田 令子)