〈〈おねだり兵庫県知事・告発職員は死亡〉「まだ飲んでない」の一言でワインをゲット。一方「生意気で」「目立った」職員にはキレ散らかすパワハラ三昧…“妨害工作”もおこなわれた百条委員会の中身〉から続く
今年3月、兵庫県の斎藤元彦知事と側近らに絡む数々の疑惑を当時の西播磨県民局長Aさん(60)が文書で告発した。その直後、県当局はなんと、Aさんだけでなく協力者と疑った他の県職員にも“ガサ入れ”をしていたと関係者が証言した。ナチスの秘密警察「ゲシュタポ」ばりの監視の中、“牛タン倶楽部”と陰で呼ばれる知事と側近衆全員の退場を願う声が県庁内から上がっている。〈画像多数〉県庁幹部の“蜜月”を揶揄するユニークなプラカードと、兵庫県当局が作成した百条委の証人になる職員への注意文書。末尾に証言内容の承認を事前に取ることを求める内容がある
Aさん以外にも行われていた犯人捜し
特産品や企業の商品をたかり、部下にキレ散らかしていた斎藤知事は“おねだり知事”“パワハラ知事”などのユルい言葉で非難されている。だが、知事らがAさんに指摘された疑惑の本丸は、①昨年11月に行われたプロ野球の阪神とオリックスの優勝パレードに際し県が信用金庫に補助金を増額しそれをキックバックで寄付させ費用に充てた、②昨年7月の斎藤知事の政治資金パーティーの券を片山安孝副知事が関係団体に補助金の減額をちらつかせて購入を強要した―という深刻な内容だ。
告発文書にあったパワハラやたかりが否定できなくなったため、これら重大犯罪疑惑も虚偽と言い切れなくなったとの見方が強まり、兵庫県議会は調査権限を持つ特別調査委員会(百条委)を設置した。斎藤知事に告発文書の内容を「嘘八百」と罵倒され懲戒処分を受けたAさんは、7月19日の百条委への出頭が決まっていたが、この百条委に向けた「陳述書」を遺し7月7日に自死してしまう。
「Aさんは3月12日に約10人に告発文書を郵送しました。同月25日に片山副知事らが西播磨県民局長室を急襲してAさんのパソコンを持ち帰り、中にあった文書のデータを発見しました。Aさんは文書を作ったことは認めつつ、これは公益通報だと表明しましたが、県当局はこの訴えを無視しました。『公務員失格』のレッテルを貼った斎藤知事の意向に沿い、県は5月にAさんを懲戒処分にしました。こうした人事措置が適正だったのかも今後、百条委で検討されることになります」(県政関係者)
今回さらに、Aさん以外の県職員にも“強制捜査”に近い措置が取られていた疑いが浮上した。県庁の事情に詳しい関係者が話す。「片山副知事がAさんの部屋に踏み込んだ3月25日午前に、別の県職員Cさんの職場を、斎藤知事の側近グループの県幹部が訪れています。県幹部はCさんが告発に関与したと見てパソコンを持ち帰ろうとしたようですが、途中で状況が変わり実行されませんでした」(県関係者)
Cさんのパソコンが取り上げられなかった理由はわかっていないが、Aさんの行動が背景にあったとの指摘がある。「Aさんは県民局長を解任された後、自身の行動を説明した第二の文書を関係者に送っていますが、その中で『私のPCが押収された直後の3月25日午前11時30分頃に、職員局長へ電話で、告発文は自分一人で作成し、他に関係者はいないと伝えた』と説明しています。県当局はこの電話でAさんが“落ちた”と判断したのかもしれません。結局Cさんはその後に無関係とわかったのですが、4月の人事異動で異例ともいえる昇進人事が出ました。“口止め”目的の厚遇人事ではないかとの見方も出ています」(Aさんの別の友人)
県職員は疑心暗鬼で職場の空気は最悪
ただ、県当局がAさんを“単独犯”だとすぐに結論を出したとの見方には異論もある。別の県OBはこう証言する「実は県は、3月末で自己都合退職をしたいと申し出ていた産業労働部の中堅幹部DさんをAさんのネタ元と疑い、退職願を保留にして調べ上げたのです。結局4月中旬になって『退職を保留するだけの材料はあったが、懲戒処分に該当する事実はなかった』として自己都合退職を認めました。洗いざらい調べて処分できないと判断したとみられますが、当然その過程でパソコンのデータもひっくり返しているでしょう」
この産業労働部のトップ、原田剛治部長はAさんの告発文書にも登場し、4月に企業からコーヒーメーカーの提供を受けていたことが発覚した疑惑の核心人物の一人だ。Dさんが県当局に責められたのは、原田部長の行動をAさんに伝えたとみなされた以外に、今後警察に余計なことをしゃべるなと念を押す目的があった疑いがぬぐい切れない。
こうした県当局の振る舞いは斎藤知事のパワハラ以上に県職員を震え上がらせているという。「県当局は、パソコンは県の備品だからデータを調べる権利があるとの立場ですが、こうした調査を見た職員らには『自分もいつパソコンに手を突っ込まれるかわからない』と恐怖に近い動揺が走っています。多くの職員が飲み会の約束といったちょっとした私的内容を含むメールなども、県当局に捕まれないようにUSBなどに移しパソコンからは消しています。職場の空気が荒廃しているという次元ではありません。仕事にならないですよ」県関係者はそう暗い表情で話す。
「同時ガサなんて、地検特捜部かマルサ(国税局査察部)にでもなったつもりか」とある県OBが口にしたのに対し、別の関係者は「地検なら捜索令状を取ってくる。県当局がやっているのは独裁国の秘密警察かゲシュタポの真似事だ」と激怒している。このように恐怖と怨嗟の的になっている県庁の中枢には片山副知事や井ノ本知明総務部長ら“4人組”がいると集英社オンラインは伝えてきた(♯2)。残る2人は原田産業労働部長と小橋浩一理事(若者・Z世代応援等担当)で、全員がAさんの告発文書に登場する。この4人はどのようにして斎藤氏を支えることになったのか。
副知事の涙の裏にあったものは…
「震災がそもそもの始まりだったんです」と話すのは県のOB氏だ。「1995年の阪神・淡路大震災を経験した兵庫県はその後、災害支援を積極的に行なってきました。2011年の東日本大震災では宮城県南三陸町などに支援職員を送りましたが、それを差配したのが片山副知事。他の3人は現地へ飛びました。その宮城県に震災2年後に総務省から出向し市町村課長を務めたのが兵庫県出身の斎藤知事です。井ノ本さんを筆頭に兵庫県職員との付き合いを深め、その関係の濃さから、仙台名物の牛タンを食べ歩いたのかどうかは知りませんが“牛タン倶楽部”と陰口をたたかれるようになりました」(県OB)
その後、斎藤氏は維新天下の大阪府に財政課長として赴任。当時の大阪府知事の松井一郎氏と2019年から知事になった吉村洋文氏の下で維新政治に感化されたようだ。「知事と課長の関係なので仕方ないですが、松井さんや吉村さんから『おい斎藤』と呼ばれて『ハイハイ』とすばしっこく動き回っている印象でした。そこで気に入られた斎藤さんは維新の推薦を受けて2021年の兵庫知事選に出馬し、それまで20年の長期県政を続けた井戸敏三知事(当時)の後継候補を破ります。もちろん牛タン倶楽部の部員たちは斎藤さんの選挙を一生懸命手伝いました。これをAさんは告発文書で、公職選挙法違反の疑いがあると指摘しています」(県OB)
長期政権の後継者が敗れ、兵庫県政は様変わりした。「表向きは維新が兵庫県政を手中に収めたように見えましたが、兵庫の事情に疎い40代の知事を担いだ4人組こそが勝者でした。就任直後から斎藤知事を外部から遮断して人との接触を避けさせ、知事の人脈はほとんど広がっていない。知事の軽さを利用して4人組が権勢を誇ってきたのがこの3年間です。一方で斎藤知事は“上司”にもいい顔をしなければならない。東京出張を吉村さんの都合に合わせてスケジュールを組んだ結果、斎藤知事自身が肝心の大臣のアポを入れられなくなってしまうなど、漫画みたいなことをやってきました」そう解説する県政界の有力者は、今の事態に至った背景も説いた。
「ただ一つ、4人組が想定外のことがあった。斎藤さんがパワハラ体質だったことです。行く先々で県職員から総スカンに遭い、Aさんの告発文書の形で噴出した。そこで片山副知事などはさっさと辞めると言い出し、記者会見で『知事を支えられなかった』と泣いてみせてましたが、アホらしい。ただのイチ抜けです。
ただ片山副知事は4人組の頭目ではない。この後、斎藤さんが知事を辞めても残る4人組のメンバーがいる限り、県庁が変わるのは難しいでしょうね」大震災を被った経験を次の被災地支援に役立てようとした兵庫県の努力が今の県政の混乱の原点にあるのだとしたら、救いのない話というしかない。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班