「進次郎構文」はアメリカでも万バズする…見栄えだけはいい「中身のないリーダー」が称賛される残念な理由

岸田文雄首相の不出馬を受け、事実上「次の首相」を決める自民党総裁選が注目を集めている。
いち早く出馬を宣言した小林鷹之氏や、5度目の挑戦となる石破茂氏、「3度目の正直」の河野太郎氏などがすでに出馬を表明しているが、中でも注目されるのが長年「将来の首相候補」と目されてきた小泉進次郎氏の動向だ。
当初、8月末にも出馬を表明すると見られていたが、台風10号の接近にともない、出馬表明を9月6日に延期したという。
小泉進次郎氏が出馬すれば、他の候補にとって強力なライバルになるのは間違いない。小泉氏はこれまで各種世論調査において圧倒的な人気を示しており、それは直近の調査でも変わっていない。日本経済新聞社とテレビ東京が共同で8月21~22日に実施した緊急世論調査では、「次の総裁にふさわしい人」として、小泉進次郎氏が23%でトップとなっている。
国民から圧倒的な支持を受けているとされる小泉氏だが、一方、その独特な発言について揶揄(やゆ)されることも多い。
いわゆる「進次郎構文」だ。
「今のままではいけないと思います。だからこそ、日本は今のままではいけない」 「このプレゼント頂き物なんです」 「未成年飲酒なんて子供のすることですよ」
など、小泉氏の発言には意味をなさない同語反復が頻出する。
また、「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべき」といった、見識が疑われる発言で物議をかもしたこともある。
小泉氏はその若さとイケメンぶりでトクをしている、という指摘もある。
つまり政治家としての小泉氏の人気は、ルックスのおかげでかさ上げされたもので、実力相応ではないのではないか、という「疑惑」だ。
ソーシャルメディア上には、「もし石破さんのルックスが小泉進次郎だったら、日本の政治勢力はだいぶ違っていたのかもしれない」「ルックスいいし、人が良さそうで人畜無害っぽいのはわかる」「ルックスがいいという理由で小泉進次郎に投票してるおばさん集団がいた」などの投稿が多数見られる。同様の感覚を持つ人はかなり多いと思われる。
元自民党衆院議員の金子恵美氏は、3月17日放送の「そこまで言って委員会NP」で、「小泉さんはまだ、地頭がそんなによくないんで。経験を積まないといけない。(まだポスト岸田には)早いのかな」と述べている。
小泉氏は今回の総裁選で菅前首相などの支援を受けているとされる。「ルックスがよく国民受けがいい」という理由でプッシュされているだけで、政治家としての実力が評価されたわけではないのではないか、という「疑問」がぬぐえないわけだ。
また小泉氏の「学歴ロンダリング」も批判されることが多い。
「学歴ロンダリング」とは、出身大学よりレベルの高い大学院に進学することで、最終学歴を高く見せる行為だ。小泉氏は関東学院大学から米コロンビア大学大学院へ進学しているので、「学歴ロンダリング」と見なされることが多い。
一生懸命に勉強して、よりランクの高い大学院に行ったというなら、褒められてしかるべきだ。
ただ、小泉氏の場合、その経歴に不自然さを感じる向きもある。
「格が違いすぎて、軟式野球部の中学生がメジャーリーガーになるような違和感があります」(ある私立大学教授)といった評価もある。
そんな小泉氏と呼応するように、アメリカで注目を集めているのが、民主党の大統領候補カマラ・ハリス副大統領だ。
各種世論調査では、共和党大統領候補のドナルド・トランプ前大統領に対し、最大7ポイントもの差をつけてリードしているという。銃撃事件後には「ほぼトラ」と言われていたが、現在は「もしハリ」「ほぼハリ」が囁かれる状況となっている。
そのハリス氏だが、小泉氏と同様に、これまで数々の意味不明発言を繰り返しており、「ワードサラダ」と揶揄されている。要するに「単語を混ぜて並べただけ」ということだ。
「進次郎構文」ならぬ「ハリス構文」の具体的な例を挙げてみよう。
「ウクライナは欧州にある国だ。ロシアという国の隣に存在する」
などは、まさに「進次郎構文」を彷彿とさせる。副大統領の発言として稚拙と言われても仕方がない。
また8月19日にシカゴで行われた米民主党全国大会で、ハリス氏は調子に乗ったのか、独特な「ハリス構文」を連発してしまった。
そのほんの一部を紹介しよう。
「民主主義国家として、われわれは民主主義の性質に二面性があることを知っている。片面においては、無傷の場合に驚くべき強さがある。それは人々の権利を保護し、防御する。信じられないほど脆弱(ぜいじゃく)で、われわれがそれのために闘う意思の分だけ強い。信じられないほど強い」
SNS上では早速、「誰か彼女の言ってることが理解できた? これだからカマラは台本から脱線しちゃいけないんだ」「彼女は地頭がよくない(She’s not smart)」「有権者はカマラの話を聞けば聞くほど支持したくなくなる」といったコメントがあふれた。
ハリス氏は大統領候補になることが確実になって以来、ボロが出るのを避けるためかメディアから逃げ回っていた。だが、8月29日にとうとうCNNの取材を受けた。
この時、単独ではなく副大統領候補のティム・ウォルズ氏が同席していたことで、「保護者役」がいなければインタビューひとつ受けられないのかと、評価を下げる結果になった。
ルックスでトクをしているのも、小泉氏とハリス氏の共通点だ。
ハリス氏を民主党のスターの地位に引き上げたのはオバマ元大統領だが、2013年4月のイベントで、当時カリフォルニア州司法長官であったハリス氏の才気、献身、タフさ、公平さを賞賛した上で、「おまけにアメリカで一番ルックスのよい州司法長官だ」と持ち上げている。
ハリス氏について、「美しい外見のおかげで民主党の男性実力者に持ち上げてもらった」と疑う人もいる。
米政治サイトのポリティコによれば、彼女はサンフランシスコ市長であったウィリー・ブラウン氏の愛人として頭角を現し、州民主党の重鎮に気に入られて出世を重ねていったという。
ハリス氏のキャリアの原点である検察官としての能力を疑う人はいない。だが、政治家としては、さまざまな点でゲタを履かされていると見る向きも多い。2020年の大統領選挙で、バイデン大統領は「副大統領は黒人で女性」と公約したが、その条件を満たすのがハリス氏だった。つまり、実力よりもDEI(多様性・公平性・包括性)で副大統領になったと一部から見られていると、NBCニュースも伝えている。
一介の議員ならともかく、一国のトップとなると、国全体の方向性を示す、政治家としてのビジョンを持っているべきだろう。
ただ小泉氏とハリス氏ともに、ビジョンがない、中身がないと批判されがちである。
米ニューヨーク・タイムズ紙の経済コラムニストであるデイビッド・レオンハルト記者は、7月9日付の論評で、「全国区の政治家としてのハリス氏には欠点がある。彼女は繰り返し、国家的ビジョンを示すことに四苦八苦しており、有権者に対して彼女がどのように国民生活を改善するのか説明できていない」と指摘している。
一方、大統領選のライバルであるトランプ氏のビジョンは、明確かつ分かりやすい。
「米国を再び偉大にする(Make America Great Again)」、そして「アメリカファースト」だ。
トランプ氏と良好な関係にあったとされる故安倍晋三元首相も、かなりわかりやすいビジョンを語っていた。
一方、小泉進次郎氏のビジョンは不明確だ。
「日本の最大の課題は、少子化です。この問題がある中で、実現したい未来、実現したい社会を考えて、そこから逆算して何を変えるか。その順番で考えていく必要があると思います」という持論を語っている。着眼点はよいが、わかりやすいビジョンとは言えず、結局なにがやりたいのか不明確なままだ。
目下、アメリカの中間層、低所得層のあいだにはインフレへの不満が渦巻いている。
中西部ミネソタ州公共ラジオ局のナンシー・マーシャル=ゲンザー記者は8月上旬、大統領選の接戦州のひとつミシガン州の西部を訪れた。ワイオミングという貧しい町のスーパーで買い物をしていたジョイス・ロビンソン氏(64)に話を聞くと、「本当は骨抜きチキンを丸ごと買いたいんだけど、高くて手が出ないから、安い骨付きのパーツを買っている」と語ったという。
また、ウォルマートの駐車場にいたデマーカス・ハリス氏(25)は、「休暇で旅行に行ったり、ペンシルベニア州のフィラデルフィアに住んでいる家族と一緒に過ごしたり、楽しいことをしたい。でも、実際には毎月の生活費を払うのに精一杯さ。食費やガソリン代や家賃で、稼ぎが消えてしまうんだ。今月も家賃が値上げされたよ。貯金なんてできないね」と苦境を訴えたという。
米国民の不満が高まる中、米民主党はトランプ的な「アメリカファースト」政策を取り入れ始めている。
たとえば、悪名高い「国境の壁」について、バイデン政権は2023年10月に建設を再開している。
また、2024年6月には南部の国境を不法に越える難民について、亡命申請を禁止する大統領布告を発表したほか、強制送還の対象となる不法移民の数も増やしている。
対外関係でも、バイデン政権の政策はもはやトランプ氏と近くなっている。
バイデン大統領は5月に、中国から輸入されるEVなど主要製品の関税率大幅引き上げを発表したほか、中国政府や企業に対して米国の最先端テクノロジーの移転や輸出を禁じるなど、保護主義的な政策を強化している。
バイデン政権の看板とも言える環境対策でも、もはやトランプ氏との違いを見いだすのが難しいほどだ。たとえばハリス候補は、2019年に反対を表明していた石油や天然ガスのフラッキング(水圧破砕法)による採掘について、接戦州である石油産地ペンシルベニアにおいては反対しないと、立場を翻した。米国人の雇用を守るためだ。
さらに、日本製鐵による米同業大手USスチールの買収計画について、米国製鉄業の象徴的存在であるUSスチールは米国内で所有され続けるべきだと言明し、米国第一主義をますます鮮明化させている。
一方、トランプ氏は「バイデン政権のEV強制で安価な中国製EVに席巻され、米国人労働者が失業する」と攻撃しているが、ハリス氏が副大統領を務めるバイデン政権は今年3月、2027年から適用する自動車の環境規制を緩和した。ガソリン車を生産できる期間を延長し、自動車製造に従事する米国人の雇用を減らさない間接的な効果がある。
このように米民主党は「アメリカファースト」に舵を切っている。
ハリス氏が大統領候補に指名された民主党全国大会では、まるでトランプ氏の支持集会のように、参加者が「USA! USA! USA!」を連呼し熱狂していた。
もし「カマラ・ハリス大統領」が実現した場合、実質的には「バイデン2.0・オバマ3.0」の政策を実行するだろうが、一方でトランプ的な政策も取り入れなければ、政権運営に行き詰まるだろう。
一方、もし「小泉進次郎首相」が実現した場合も、同様に、その時々の世論に応じて、大衆迎合的な政策を実行していくだろう。
ハリス氏同様に「ビジョンなきグローバリスト」である以上、ポピュリズムを志向するのはある意味当然かもしれない。
小泉進次郎氏の研究で知られる東京工業大学教授の中島岳志教授は、「米国への留学中にジャパンハンドラーズの代表的人物とつながりを構築した小泉氏は、父の純一郎氏と同様、米国の意向に沿うような政策を志向するだろう」と指摘する。
小泉氏は少子化対策のほか憲法改正も持論とのことだが、はたしてどこまで米国の意向に沿って政権運営するのだろうか。
国際協調からブロック化に転じる国際情勢の下、どのように日本の生き残りを図るのか。
進次郎構文ではないが、「力こそパワー」をむき出しにしつつある世界にどう対応するのか、その具体的方策を打ち出さなければ、長期政権はおろか、総裁選の当選もおぼつかないのではないだろうか。
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(在米ジャーナリスト 岩田 太郎)

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