「中身がない進次郎構文」の生みの親とは思えない…出馬会見で進次郎氏と高市氏が見せつけた”圧倒的な差”

自民党総裁選挙を9月27日に控えた東京・永田町で、早くもこんな政治日程が漏れ聞こえてくるようになった。
10月1日(火)臨時国会召集、首班指名選挙 10月4日(金)新首相、所信表明演説 10月7日(月)~9日(水)衆参両院で代表質問 10月9日(水)衆議院解散 10月15日(火)衆議院選挙公示 10月27日(日)参議院岩手補選と同日投開票
国民に人気が高い石破茂元幹事長(67)や小泉進次郎元環境相(43)が揃って早期の解散・総選挙に言及しているため、筆者も、仮にどちらかが首相になれば、10月22日公示、11月3日投開票、もしくは、10月29日公示、11月10日投開票になる可能性が極めて高いと考えてきた。
しかし、流布され始めた総裁選挙後の政治日程は、それよりも早い。これには、「政府も自民党も、石破さんか小泉さんを想定して、すぐに選挙が打てるよう臨時国会の召集を早くしようとしているのだろう」(日本維新の会参議院議員)という見方が広がっている。
確かに、大手メディアが弾き出す自民党員・党友を対象にした調査では、石破氏と小泉氏が常にトップ争いを演じている。このツートップを、少し離れて追うのが、高市早苗経済安保相(63)と小林鷹之前経済安保相(49)という構図だ。
筆者もこの構図に異論はないのだが、今回は9人もの候補者が乱立する選挙だ。1回目の投票(議員票367票+地方の党員・党友票367票)では誰も過半数を獲得できず、決選投票(議員票367票+都道府県票47票)にもつれ込む混戦は避けられそうにない。
そうなれば、「決選投票で最終的に勝てそうな候補者は誰か」という議員心理が働くため、結果は、党員・党友を対象にした人気調査とは異なる可能性も十分ある。
決選投票に進むことができるのは、1回目の投票で1位か2位になった候補者だけだ。1回目の投票で「2位以内」に入るには、メジャーリーグで大谷翔平選手が挑んでいる「50-50」でははるかに遠く、少なくとも「50-100」(議員票で50票+党員・党友票で100票)以上の得票が不可欠になる。
前回、2021年の総裁選挙では、1回目の投票で、今回も出馬している河野太郎デジタル相(61)が255票(議員票86票+党員・党友票169票)で2位につけたが、これは、候補者が4人だったため参考にならない。
票が分散する今回は、「合わせて150票以上、できれば180票くらいは欲しい」(小泉氏を支援する衆議院議員)というのが、決選投票進出を目指す陣営の本音だ。
その数字なら、石破氏も小泉氏もクリアできるラインだが、旧安倍派をはじめ保守系議員の支持を受ける高市氏と、旧安倍派を中心に幅広く支持を得ている小林氏も、頑張れば手が届く数字である。
筆者は、告示前の9月3日、自民党所属の衆参国会議員が誰を支持しているかという調査結果を入手したが、その時点でトップの支持を集めていたのが小林氏(33人)で、高市氏(15人)も、石破氏(18人)や小泉氏(17人)と遜色なかった。
その意味では、下馬評が高い石破氏と小泉氏の2強に、高市氏と小林氏を加えた「2+2」の戦いが、これから本格化するということだ。
さて、総裁選挙に名乗りを上げた9人の候補者たちは、これから、候補者討論会や愛知県を皮切りに行われる全国8カ所の地方遊説でしのぎを削ることになる。
ただ、現実問題として、候補者が多すぎて、政策論争はどうしても総花的になる。当然ながら全員が自民党議員なので、誰もが憲法改正の必要性には言及するし、「政治とカネ」の問題に関しても、その濃淡はともかく厳しい姿勢を見せるはずだ。
ジャーナリストの立場で言うべきことではないかもしれないが、経済政策を除けば、誰も言うことは似たようなものだ。その中で問われるのは、メッセージの伝え方だ。
政治改革にしろ、経済対策にしろ、外交や安保、社会政策にしろ、「自民党はもうダメだ」と思いかけていた国民に夢や希望を持たせる話し方ができるのは誰か、ということである。
昨今、ビジネスの世界で聴衆に浸透する話し方として注目されている話法に「ストーリーテリング」がある。
「ストーリーテリング」とは、文字通り、物語で伝えるという話法で、たとえば、誰かに商品を売る際、その商品の性能やスペックではなく、技術者を主人公にした開発秘話とか製造までの苦労話、あるいは、消費者を主人公にし、それを購入することで得られる明るい未来を想像させて共感を得るという話し方だ。
政策で言えば、なぜ、自分がその政策をやろうと思い立ったのかを、データなどを踏まえて論理的に語るよりも、実話やたとえ話などを交えて、「なるほど、そうだ」と聞き手の感情を動かす手法である。
これまでの各候補者の出馬会見を聞く限り、「ストーリーテリング」ができていたのは、小泉氏と高市氏の2人である。
小泉氏は、9月6日に開いた出馬の記者会見で、いきなり「ストーリーテリング」を用いた。
「私自身、2児の父親になったことが人生の転機になり、それまでとはモノの見方が大きく変わりました。正直、こんなにも変わるとは思いませんでした。自分のことより子どものこと、自分の人生より子どもの未来。子どもたちの未来に責任を持つ政治家として、今、政治を変えなかったら、子どもたちの未来に間に合わない。そんな危機感が募り、今、ここに立っています」
自らを主人公に、子どもを持つ父親として感じた思いを吐露しながら、改革を圧倒的に加速しなければならないと訴えた小泉氏の話法は、これまで揶揄され続けてきた「中身がない小泉構文」とは全く異なるものだった。小泉氏の「ストーリーテリング」はさらに続く。
「誰かの評価より自分の気持ちに素直に生きられる国にしたい」
「出番さえあれば能力や個性を発揮できるのに、ベンチに座らせたまま、試合に使わない……。今の日本に1人の人材もおろそかにできるゆとりはない」
これらの主人公は、思うように生きられない人や力を発揮できずにいる人たちだ。この言葉を聞いて、筆者は、小泉氏の外交手腕や経済対策などには「?」がつく部分があるものの、「小泉劇場の再来。これで1歩も2歩もリードしたな」と感じたものだ。
高市氏も、9月9日の出馬会見で「ストーリーテリング」の話法を用いた。会見の結びとして、ある映画のシーンを取り上げ、終戦間際の時代にタイムスリップし、特攻隊員と恋に落ちた女子高生の言葉を引用して見せた。
「私たちが生きている今。誰かが命懸けで守ろうとした未来だった」
高市氏は、この言葉に続けて、「だから私も、日本を強く豊かにして未来に引き渡す責任がある」と強調したが、この部分は、出馬会見で訴えたどの政策よりも印象的に伝わったのではないかと考えている。
これに対し、小林氏は政策を論理的に語る話法だ。誠実さは感じられるものの、「ChatGPT」と揶揄されるように心に響かない。かつて人気調査で1位になったこともある河野氏は、話し方以前に、麻生派に残ったままで政治改革を叫んでも説得力に欠ける。
他の候補者は、良くも悪くも「いかにも政治家」という話し方で、「増税ゼロ」とか「仁の政治を行います」などと言われても、「あなたにできるの?」「なぜ今までやらなかったの?」という気持ちにしかならない。
国内を見れば、物価高が続き、大地震への不安が消えず、少子化対策なども待ったなしだ。政治不信も根深い。
国際社会を見ても、中国による台湾統一が現実味を帯びる一方で、今年7月、中国軍(人民解放軍)の機関紙「解放軍報」が、「今、党内政治生活が正常さを失い、個人は家長制的なやり方で、鶴の一声で物事を決めるようなことが起きている」と、暗に習近平総書記を批判する論評を出したことは注目に値する。これは、一強体制を築いてきた習指導部に揺らぎが生じている証左だ。
頼みのアメリカは、次の大統領に、ハリス氏とトランプ氏のどちらがなるのか見通せない状況が続いている。
そんな大変な時期に選ばれる日本の政治のリーダーは、「信用して任せてみるか」と思わせる力があることが大きな武器になる。これから本格化する選挙戦では、その点にも注目したいものだ。
これまで述べてきたように、総裁選挙は、石破氏と小泉氏を軸に、高市氏と小林氏を含めた4人の中から決まる公算が大きい。そのカギを握るのは、1回目の投票で3位以下になった候補者の陣営や影響力がある重鎮たちが決選投票で誰を支持するかである。
過去の決選投票では、1回目の投票が終わり、その結果が発表されてから5分で決選投票がスタートしている。わずか5分では、談合する余裕はない。そのため、各陣営は「3位以下」になった場合にも備えておく必要がある。永田町で聞いた声をもとにまとめておく。
どちらも菅義偉元首相(75)と近いため、キングメーカーの1人、麻生太郎副総裁(83)には打つ手がない状態。麻生派全体でとはいかないまでも消去法で小泉氏に乗る。岸田文雄首相(67)や二階俊博元幹事長(85)が石破氏を支持すれば接戦に。
旧安倍派の中で選挙に弱い安倍チルドレンは小泉氏、保守系議員は高市氏で分裂。麻生氏や岸田氏は高市氏か。トータルで小泉氏勝利の可能性。小林氏が2位なら、菅氏支配を嫌う麻生氏などは小林氏を支持すると見られるが、小泉氏優位は動かず。
麻生氏は「首相時代、退陣を迫った石破氏だけはNG」で高市氏を支持。菅氏と二階氏は石破氏を支持するが、旧安倍派などの保守系議員は高市氏に投票するため女性初の宰相の目も出てくる。小林氏が2位でも小林氏に逆転勝利の可能性も。
高市氏と小林氏が1位、2位になるケースは想定しにくいので、3パターンに分けたが、これまで影響力を維持してきた麻生氏は、自派閥の河野氏を推しながらも、どこかで高市氏か小林氏に切り替える判断を迫られる可能性もある。
旧茂木派と旧二階派はまとまりを欠いているので、焦点は麻生氏と麻生派、岸田氏と旧岸田派の動きになる。
筆者が取材する限りでは、現時点で小泉氏が優勢だ。とはいえ、9人が乱立する総裁選挙は過去に例がなく、筆者はもとよりキングメーカーと呼ばれる重鎮たちですら経験がない。自民党最大の権力闘争は、候補者9人の政策や話し方に加え、情報戦が勝敗を分けそうだ。
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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水 克彦)

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