〈〈追及・兵庫県政〉ついに泣き始めた斎藤知事!だが、そのワケを聞いて記者団は二度仰天…「せめて自死に追い込まれた県職員と県民のために涙を流せ」と会見大荒れ〉から続く
兵庫県の斎藤元彦知事は、9月12日までに86人の県議全員から辞職要求を突き付けられた。しかし、翌13日も辞職はしないと表明。これで19日からの9月議会初日に知事の不信任案が可決されることは確実となった。斎藤知事は議会を解散して抵抗する手もあるが、出直し選後の次の県議会で斎藤氏が退場を迫られることは必至だ。失職不可避の斎藤知事は、なぜ延命を図るのか。<号泣謝罪といえば…>7月に「知事を支えられへんかった、くやしい」と涙を流した片山元副知事…泣きたいのは遺族や兵庫県民だろう
妻にも県はアプローチを試みたが…
「政治家として至らない点もあるが、私としては県政を刷新していく思いを強く持っています。未来の兵庫のための県政改革の歩みを止めるわけにはいかない」斎藤知事は13日午前、県議会最大勢力の自民党など4会派と無所属議員が連名で行なった辞職要求への受け止めを記者団に聞かれ、知事を辞める考えがないことを改めて表明した。不信任案への対応については「(不信任案が)提出・可決されれば法律の趣旨に基づいて私は判断していきます。さまざまな選択肢があるのでこれから判断していきたい」と応じ、議会解散を排除しない考えも押し出した。
斎藤知事が当選した3年前の知事選では自民党県議団が分裂し、県議11人が維新とともに推したことで斎藤知事が誕生した。11日の会見で、3年前に斎藤氏を支援した自民党県議も辞任を求めていることの受け止めを聞かれた知事は「大変、申し訳ないな、と。こういう状況になったということは申し訳ないな、という思いで、自分自身に悔しい思いではあります」と言いながら泣き始めた。これを見た県庁内では「自民からも維新からも引導を渡され、ついに観念して辞任に応じるのでは」との見方も出た。(♯17)
だが斎藤知事の感情が揺らいだのはその一瞬だけだった。会見翌日の12日、すでに辞任要求をしていた維新を除く全4会派と4人の無所属議員全員の連名による辞職の申入書が県側に渡され、県議86人全員からの辞職要求がそろう前後、記者団の「ぶら下がり取材」を嫌がることもなく何度も受けた斎藤知事は、そのたびに辞職をしない意志を力強く表明している。
「県職員は大変な状況になっています。片山副知事(7月末に辞職)をはじめとする“牛タン倶楽部”と陰口をたたかれた側近グループも全員が知事のもとを離れました。知事や牛タン倶楽部の指示を受け実行するしかなかった幹部らの一部も『県政がこの混乱から立ち直ったら責任をとって身を引く』と口にしています。もはや知事を支えようとする県職員は誰もいません。それでも知事は、『辞めろ』の大合唱にもまったく聞く耳をもたない状態です」(県幹部)
実は県の中からも“軟着陸”を模索する動きがあったが、うまくいかなかったのだという。「斎藤知事は奥さんらと神戸で暮らしてきましたが、問題が大きくなってから奥さんは神戸を離れています。その奥さんに県はアプローチを試みたと聞いています。辞職するよう知事を説得してもらいたい、というのが狙いでしょう。しかしそれもうまくいっていないようです」(県関係者)
議会を解散すれば冬のボーナスの支給対象に…
これほどの四面楚歌にも、なぜ斎藤知事は職に執着するのか。一部では「時期」を選んでいるのではないかとの憶測もある。「地方自治法の規定を見ると、9月19日に不信任案が可決されれば10日以内に知事は失職か県議会解散をする必要があります。ぎりぎりの9月29日に議会を解散すれば、40日以内に投票を行なう規定のため投開票日は11月3日が有力になります。その後、知事は30日以内に議会を招集しなければなりません。この期間を目いっぱい使えば、次の県議会は12月上旬からになります。招集の初日に知事は失職させられるでしょうが、知事が12月1日に在職していれば冬のボーナスの支給対象になるとみられています」(同前)
県関係者によれば、12月1日に在職していれば知事のボーナスは約239万円になる見込みだ。ただこれには別の見方もある。斎藤知事自身が当選直後の2021年10月、「身を切る改革」をうたった選挙公約に従い、自身の給与とボーナスは3割、退職金は5割の削減を実行に移しているためだ。「お金のためかどうかは分からないですね。ボーナス狙いの延命なら給与・ボーナスカットの公約実現の成果を自分で踏みにじるようなことになりますから。でも、これまでいろいろ出ているタカリは、給与が減った分を取り返そうという考えがあってのことかもしれませんから、なんとも言えないです」(同前)
一方、県職員やOBを中心に懸念の声が出ているのが、県議会調査委員会(百条委)の行方に絡む問題だ。今回の問題は県の元西播磨県民局長Aさん(60)が、斎藤知事のパワハラやタカリだけでなく、片山副知事ら牛タン倶楽部が絡む公金不正支出疑惑など7項目の問題を記した告発文書を3月12日に匿名で県議や県警、メディアに送ったことから始まった。
この内容を把握した斎藤知事は片山副知事らに告発者探しを指示。公益通報者保護法違反とみられる告発者の探索で特定されたAさんは報復の懲戒処分を受けた。さらに探索過程でAさんの公用パソコンから抜き出した個人情報を、井ノ本知明前総務部長(8月に更迭)が県議らに見せて回ったとの証言がある。
県議会はAさんが告発した7項目の疑惑を調べる百条委を設置し、後にAさんに対する告発者つぶしの弾圧も調査項目に加えている。だが、この百条委の場でも維新の増山誠県議がAさんの個人情報の公開を要求するなどし、Aさんは7月に「一死をもって抗議する」「百条委は最後までやり通してほしい」との遺書を残し自死している。(♯14)
県職員らは、県議会が解散されるとAさんの命と引き換えにつくられたこの百条委がいったん消滅することに危機感を募らせている。そして斎藤知事は、百条委消滅による疑惑解明作業の終結を狙っているのではないかとの見方もある。「議会が解散されれば解散後の選挙で選ばれた次の県議会が再び百条委を設置して調査を引き継ぐことは可能で、当然やらなければいけません。しかしこれが本当に実現するのか。県議には百条委を、斎藤知事を追い込む手段としか考えていないと思える節がある人物もおり、次の議会で設置される保証はありません」(同前)
解散後に県議会は再び百条委を設置するのか?
現在の百条委はこれまで斎藤知事を2回、片山副知事を1回、それぞれ証人尋問し、パワハラやタカリ、Aさん弾圧に絡む新事実がいくつか明らかになっている。だが、斎藤体制下での県中枢部の力関係の解明が極めて困難であることをうかがわせる場面もあった。9月5日、百条委に証人として出席した原田剛治産業労働部長が、井ノ本前総務部長が持ち歩いていたとされるAさんの個人情報を、3月下旬には自分も聞いていた、と口にした。人事ライン以外の原田部長がこうした情報を入手すること自体が、個人情報保護法などに違反する疑いが強い。百条委で、誰から聞いたのかと詰問された原田部長は「人事課長とか副課長がいる場で(聞いた)」と証言した。
ところがこの証言に人事課が猛反発して訂正を要求。結局、原田部長は翌6日に再び百条委で証言のやり直しを自ら求め「3月25日に片山副知事から聞いていた」「(この情報が)他の場でも話題になっていた」などと発言している。
この状況を県関係者が解説する。「原田部長は人事課長と特定する前から『人事課の方から聞いた』と口にしていました。誰から聞いたか言えと問い詰められて人事課長の名を挙げ、次に片山元副知事を名指ししましたが明らかに不自然です。原田部長の説明を信じる者はほとんどいません。原田部長は情報を聞いた相手を絶対に隠さなければならず、人事課長や片山元副知事のせいにしたのではないか、人事課は黙っていなかったが、片山氏はそれを“かぶった“のではないかという見方が大半です」
原田部長がかばったとすればそれは誰なのか。そして百条委では証人として出席を求められた井ノ本氏が「殺害予告を受けている」と主張して出席を拒むなど、他にも実態解明の障害となる事態が起きている。
Aさんの個人情報とされるものに絡んでは、維新の掘井健智衆院議員が9月2日に地元のJR加古川駅前で一般の有権者に「(Aさんの公用パソコンから)出てきたもん、何や思います?」と口にしながら言いふらしていたことも発覚した。(♯16)いまだにAさんの名誉は蹂躙され続けているといっていい。
Aさんが告発した7つの疑惑と、Aさんを死に追いやった個人情報の流布。これらの真相究明を阻む最も効果的な手段として、斎藤知事は議会解散による百条委の消滅を図っている可能性もある。生前のAさんを知り、真相の解明を願う関係者は、不信任決議へと突き進む事態を緊張感の中で見守っている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班