火山防災体制、全国で整備 調査研究は地震より30年の遅れ 御嶽山噴火から10年

死者、行方不明者63人を出した御嶽山(長野、岐阜県)の噴火から27日で10年となる。戦後最大の火山災害は政府に体制の見直しを突き付け、全国49火山で自治体などによる「火山防災協議会」が整えられた。一方で警戒監視の根幹となる調査研究は今年になって全国の司令塔組織が発足。地震と比べて約30年遅れており、「スタートラインに立った」(有識者)ばかりだ。
標高3067メートルの御嶽山が噴火したのは、平成26年9月27日午前11時52分ごろ。地下のマグマで水蒸気が蓄積されて起きる「水蒸気爆発」が山頂南西側で発生。付近に大小の噴石が降り注ぎ、登山客ら58人が死亡、5人が行方不明となった。
噴火警戒レベルが3の「入山規制」に引き上げられたのは噴火約45分後。9月10~11日に火山性地震を計137回観測した気象庁は「解説情報」を発表したが、マグマの上昇が確認できず警戒レベルは1の「平常(当時の呼称)」のままだった。
「『平常』のキーワードから『安全』と捉えた人もいると考えられる」。政府中央防災会議の指摘を受け、気象庁はレベル1の表現を再検討。「活火山であることに留意」として予期せぬ噴火の可能性を踏まえた。噴火の事実を伝える「噴火速報」の運用も始めた。
御嶽山は火山防災協議会が未設置で整備遅れが問題視された。そこで政府は27年に改正活火山法を施行し、警戒地域を指定した全国49火山での協議会設置を義務付けた。
施行前、連絡会などを含め30だった設置数は今年3月までに全49に拡充され、火山ハザードマップの作成、噴火警戒レベルの運用が行われている。一部自治体を除き、統一的な避難計画が策定され、「ベースはできた」(政府関係者)。
一方、調査研究体制は遅れている。議員立法で再度改正された活火山法が今年4月に施行され、司令塔となる「火山調査研究推進本部(火山本部)」が発足。阪神大震災後の平成7年にできた「地震調査研究推進本部(地震本部)」より30年近く後れを取った。
さらに文部科学省が28年から行う研究プロジェクトで、重機を使った地質調査で過去の噴火歴を調べるなどして、予測困難な水蒸気爆発を起こす火山に共通構造があることが明確になった。
今後の課題は人材育成だ。現場で観測を続ける専門家は全国に約40人しかおらず、10年前と大きく変わっていない。各大学は予算不足でポストが足りないのが実情だ。専門家と連携する自治体職員も2、3年で担当が変わってしまう。
元火山噴火予知連絡会長の藤井敏嗣東大名誉教授は「形が整っても中身は十分とはいえない。一番難しいのは専門人材の確保だ。市町村が対応に当たる日本の防災体制の問題もある」と訴える。(市岡豊大)

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