袴田巌さん(88)が再審無罪となった。昭和41年6月にみそ製造会社の専務だった橋本藤雄さん(41)一家4人が殺害された事件はすでに時効を迎えており、無罪が確定すれば、事件は迷宮入りとなる。捜査当局側からは自戒の声が漏れる。
静岡県警は事件発生約1カ月半後の41年8月18日、みそ工場の住み込み従業員だった袴田さんを強盗殺人などの容疑で逮捕。公判などでは、県警が1日平均12時間も取り調べ、取調室で用を足させた上で「お前が犯人だ」などと迫って自白調書を作成していたことが発覚した。
公判で袴田さんは無罪主張に転じた。確定判決では、45通の自白調書のうち、検察官調書1通を除く44通が採用されない異例の事態となった。
法務・検察幹部は「当時は自供重視の捜査が主流だったが、袴田さんへの取調べは度が過ぎていた」と振り返る。
初動捜査の詰めの甘さを指摘する向きもある。
県警は、再審が始まるきっかけとなった「5点の衣類」が見つかったみそタンクを事件発生4日後にも捜索していたが、みそが残ったままだったため徹底できず、後に発見された衣類がいつからタンク内にあったかが曖昧になった。
再審開始を決めた東京高裁の審理での検察側の不備を指摘する声もある。検察側は衣類の血痕に赤みが残る可能性を主張したが、赤みが残る具体的な科学的根拠までは十分に示せなかったとの批判だ。
検察OBは「捜査側には油断といえる部分がある。徹底さを欠いており、反省すべき点は多い」と話している。(桑波田仰太、久原昂也、星直人)