自民総裁選で論争、解雇規制見直しに評価二分…「成長分野へ転職促進」「生活の根幹が崩れる」

自民党総裁選(27日投開票)では、解雇規制の見直しが経済政策の論点の一つになった。解雇のハードルが下がれば成長分野への転職促進につながるとの見方がある一方、労働者側は「リストラ推進策だ」と反発している。(中村俊平)

議論の的になっているのが「4要件」と呼ばれる規制。企業の都合で雇用契約を一方的に打ち切る「整理解雇」の際に満たす必要があり、〈1〉人員削減の必要性〈2〉解雇回避努力の履行〈3〉対象者選定の合理性〈4〉手続きの妥当性――を指す。
整理解雇の是非が争われた訴訟で、東京高裁が1979年に解雇を有効と判断した際、この4要件を示した。立場の弱い労働者側を守るのが目的で、その後の同種訴訟でも判例が積み上げられてきた。
これに切り込んだのが小泉進次郎・元環境相(43)。「労働市場改革の本丸」として見直しをぶち上げた。大企業に対し、解雇回避努力に、学び直しや再就職支援を新たに義務付ける案を提示。実現すれば、埋もれた人材が新興企業などに転職しやすくなると訴えた。
経済界には産業構造が変化する中、正社員を長く雇い続けることが、企業の生産性や競争力の低下を招くとの認識が強い。規制を緩和すれば転職が活発化し、若者を正社員として雇いやすくなるとの見方もある。
解雇については、米国では差別的なケースを除き、基本的に企業の自由とされている。一方で、イギリスやドイツなどの欧州では日本と同様に、「合理的で正当な理由」が求められる。
経済同友会の新浪剛史代表幹事は記者会見で「(解雇規制は)戦後の製造業を中心に経済発展する中でできたもので、見直さなければならない」と話した。

ただ、他の候補者からは慎重論が相次いだ。労働者側の拒否感も根強い。
IT企業で働いていた東京都内の50歳代男性は7年ほど前、上司と衝突して降格処分を受け、解雇を通告された。専業主婦の妻と中高生の子ども2人を抱え、住宅ローンも残っていた。
解雇無効を求めた訴訟で会社と和解し、今は別会社で働く男性は「解雇は生活の根幹が崩れる。当時は死が頭をよぎるほど追い込まれた。軽々に見直しを論じるべきではない」と憤る。
労働組合の全国中央組織・連合の芳野友子会長は記者会見で、「働く人の立場を不安定にする解雇が真っ先に論じられるのは不安をあおり、労働意欲を低減させる」と明確に反対した。
解雇を巡っては、金銭補償のルール整備を訴える候補者もいる。不当解雇された際に、企業から金銭補償を受け取れることを明確化し、労働者の早期救済につなげるのが狙いだ。
安藤 至大 日本大教授(労働経済学)は「労働者の離職は自由で、最近は同じ会社で働き続けたいという意識も薄れており、転職促進に規制の見直しが必要かは疑問。解雇しやすくするより、労働者のスキル向上のため、平常時からの学び直し支援が重要だ」と話す。

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