損害保険大手4社が企業・団体向けの保険契約でカルテルを結んでいた問題で、公正取引委員会は31日、三井住友海上火災保険▽損害保険ジャパン▽あいおいニッセイ同和損害保険▽東京海上日動火災保険――の独占禁止法違反(不当な取引制限)を9件認定し、課徴金計20億7164万円の納付と、再発防止を求める排除措置を命じた。公取委は各社の組織的な関与は確認されていないとする一方、同時多発的に違反行為が行われていたことから、業界内に「不正がまん延している」と指摘した。
違反行為9件はカルテルが7件、談合が2件。不正な売上高は540億円規模に上った。公取委の大胡勝審査局長は31日、4社の社長に命令内容を直接伝え、記者会見で「一従業員、一組織の問題ではなく、会社の体質を問われている。魂を入れて規律を守らなければいけない」と述べた。
カルテルは複数の損保が共同して契約を結び、保険料を分配する「共同保険」を悪用。通常、各社が提示した見積額から最も安い額が採用されるため、4社は2019年以降、エネルギーや交通インフラなどの事業者との契約を更改する際に事前調整し、それぞれの取り分が増えるよう見積額を一斉に引き上げていた。
共同保険は自然災害などに伴う多額の補償リスクを分散する仕組みで、損保側は幹事会社が仕切り役となり、複数社があらかじめ決めておいた引き受け割合(シェア)に応じて保険金の支払いを分担する。損保間の相互連絡が不可欠で、カルテルの温床になった。
カルテルは各社の担当者間で引き継がれ、違法性を疑っても「自分の担当時にやめるわけにいかない」といった意識が働いていた。カルテルで保険料引き上げに成功したとの社内報告がなされたケースもあった。
一方、公取委は31日、一部カルテルで損保間を仲介したとして、保険代理店「共立」に対しても排除措置命令を出した。共立は代理店になることで手数料収入を得ていた。また、2件の談合はあいおいを除く3社が、東京都と警視庁がそれぞれ発注した保険の入札で事前に受注する社や落札額を決めたという。
損保大手4社を巡っては金融庁が23年12月、保険業法に基づく業務改善命令を出し、保険契約計576件で不適切な行為があったと指摘。公取委は今回、うち9件について独禁法違反を認定した。【渡辺暢】