文部科学省は新型主力ロケット「H3」の発射場設備の拡充に乗り出す。鹿児島県の種子島宇宙センターにある人工衛星の組み立て棟や燃料貯蔵タンクを増やすなどし、1か月間隔で発射できる能力を持たせる。年間打ち上げ目標数を7機以上にすることで衛星打ち上げの受注を増やし、宇宙ビジネス拡大につなげる。
衛星を活用した宇宙ビジネスの拡大で、ロケットの打ち上げ需要は急増している。内閣府によると、2023年の世界の打ち上げ成功数は13年の2・8倍となる212回。宇宙航空研究開発機構(JAXA)はH3打ち上げ数の目標を年間6機にしているが、さらに需要を取り込みたい考えだ。
しかし、H3など大型の基幹ロケットの発射場がある種子島宇宙センターは設備上の制約を抱えている。
H3に衛星を搭載する作業を行う組み立て棟は2棟あるが、一連の作業には1か月半から3か月程度かかるため、1か月間隔で発射する能力はない。
また、H3用の燃料で使う液体酸素は島外から複数回に分けて輸送し、発射場の貯蔵タンクで保管しているが、現状で打ち上げ1回分の貯蔵能力しかない。発射間隔を短くしたくても、すぐに燃料を確保できない。
衛星は、利用目的や投入する軌道などで打ち上げ時期が限られることがある。発射間隔に制約があると、商機を逃す可能性がある。
そこで文科省は発射場設備などの拡充に向け、今年度補正予算と来年度予算の概算要求に計約19億円を計上。退役が決まっているH2Aロケット用の衛星組み立て棟をH3用に改修し、計3棟で衛星3基の準備を同時にできるようにするほか、液体酸素貯蔵タンクを3基から4基に増やす。
さらに、H3の製造能力も強化する。三菱重工業の飛島工場(愛知県)では、目視できないロケット配管内側の異常をX線で検査する機器なども拡充する方針。
こうした複数の対策を27年度前半までに終え、文科省は28年度以降、H3を年間7機以上打ち上げられる能力を備えたい考えだ。
発射数が増えれば1回あたりの価格は下がり、国際競争力の向上につながる。今年、業界最大手の米スペースXの打ち上げ成功は100回を超えたが、日本は基幹ロケットのH3とH2Aの計5回にとどまる。
ロケット開発を巡っては、東京の新興企業スペースワンが18日、小型ロケット「カイロス」2号機の打ち上げに失敗した。政府は民間も含め年間30機の打ち上げを目標にするが、官民で増やさないと達成は難しい。
◆H3=H2Aロケットの後継機として、JAXAと三菱重工業が共同開発した国の大型基幹ロケットの一つ。今年2月に初めて打ち上げに成功した。