自民党本部から地方への交付金、なぜ正しく記載されない? 収支報告書「ミス」1600万円超、「政治とカネ」改革で置き去りにされる根本問題

自民党本部が2020~23年、各都道府県の支部連合会へ支出した交付金のうち、大阪や北海道など8道府県連で、計約1622万円が政治資金収支報告書に収入として記載されていなかったり、過少に記載されたりしていた。自民党本部が交付金を支出したと記載していたのに、支部連合会側に記載がなく食い違っていたケースは、別団体からの収入としていたものなどを含めると4年間で217件に上る。なぜこんなにも「ミス」が多発するのか?国会で昨年から進められてきた「政治とカネ」の改革議論。旧安倍派など自民党派閥裏金事件に端を発するものだが、今の議論の大きな欠陥が見えてきた。(共同通信=高津英彰)
▽不記載、過少記載

一連の不記載で最も巨額だったのが大阪府支部連合会だ。大阪府連は2022年4月に振り込まれた1千万円を記載していなかった。「同月に政党助成金口座にも1千万円の振り込みがあり、誤認した」と説明している。2020年には党大会中止にともなって、新幹線代の払い戻しで生じたキャンセル代1120円も、交付金として受け取っていたが記載していなかった。
千葉県支部連合会は2020年に50万円を受け取ったが、そのまま同額を支出したため「『仮受け金』として処理した」といい、収支報告書に記載しなかった。
北海道支部連合会は2020~22年に毎月受け取っていた交付金を15万円ずつ少なく計上しており、36件計540万円の過少記載となった。「アルバイトの人件費を差し引いて計上していた。政治資金規正法に関する誤解があり、本来であれば経常経費から支出をしなければならないアルバイト代を、党本部からの交付金から差し引いて良いものと思い込んでいた」と釈明した。 少額のものも含めると、奈良、栃木、大分、青森で不記載、沖縄で過少記載があった。いずれも「ミス」だったとしている。
▽支部連合会とは
自民党本部=2024年10月
自民党には、東京・永田町を拠点とする党本部のほか、全国各地に支部が存在する。市町村ごとに置かれた市町村支部、自民党を支持する業界団体ごとにまとまった職域支部、衆参の選挙区ごとに置かれる選挙区支部などだ。 支部連合会はそうした各支部と本部の連携を図り、選挙対策や党勢拡大運動、議会対策、党員・党友名簿の管理など広域的な連絡調整に当たっている。47都道府県全てにあり、自身で政治資金パーティーを開く団体もあるなど、多額の政治資金を取り扱っている。しかし、記載内容の度重なる食い違いから浮かぶのは、政治資金規正法の知識不足や、これまで会計ルールが曖昧で慣例に従った処理になっていたことだ。
▽なぜ「ミス」が?
訂正された自民党大阪府支部連合会の政治資金収支報告書
不記載や過少記載、交付金として記載せず「その他の収入」にまとめて計上するなど200件超の食い違いについて、党本部はいずれも「支部連合会のミス」と説明している。ただ、支部連合会関係者からは「作成した収支報告書を毎年、党本部に送っているが、食い違いの指摘はなかった」と恨み節が相次ぐ。 ある県の支部連合会関係者は「党本部には経理局があり、10人以上の専従職員がいると聞いている。地方の支部連合会では担当者が1人だけのところが多く、大体は他の業務との兼務だ。これまで会計処理についての指導もなく、取材を受けた途端、慌てて支部連合会側に責任を押しつけることには納得できない」と憤った。
党本部は昨年夏、収支報告書作成に当たって、口座に振り込まれた資金のうち、交付金収入として記載するべきものを支部連合会側に通知した。自民党は「現在は交付金の(記載内容に)齟齬がないよう、さらなる周知徹底を図っている」と強調している。
▽欠陥
取材に応じる日本大の岩井奉信名誉教授=1月、東京都千代田区
「政治資金収支報告書をないがしろにする行為で、ミスでは済まされない。一連の問題には、透明性の欠如とチェック機能不全という政治資金規正法の欠陥が詰まっている。特に政党に問題が多い」 そう話すのは、政治資金に詳しい日本大の岩井奉信名誉教授だ。
岩井氏は、党本部と支部連合会は同じ政党の組織でありながら、会計上は別の政治団体になっていると指摘。「会計が分かれているため、自民党という政党が国内に数千単位である形になっている。会計的、財務的には別組織で相互的なチェックもなく、とにかく分かりにくい。党本部と支部連合会の間ですらこの状況なら、地方支部に至ってはもっと問題があるのではないか」と話す。
▽取り残し
政治資金規正法再改正案を可決した衆院本会議=2024年12月17日
自民党の派閥裏金事件を受けて政治資金規正法は昨年、2度改正された。政治資金をチェックする第三者機関「政治資金監視委員会」の設置が決まったが、対象は国会議員と密接な関係を持つ国会議員関係政治団体に限られた。
国会で答弁する石破茂首相=2024年12月
税理士など登録政治資金監査人による監査制度は以前からあるが、対象はやはり国会議員関係団体のみで、政党は政治資金改革から取り残されている。
昨年の規正法改正で、収支報告書の透明性を高めるため、オンライン提出やデーターベース化が決まった。しかし、岩井氏は6万を超える政治団体のうち、国会議員関係政治団体など3千足らずの政治団体しか対象になっていないと指摘する。政党についても党本部は対象だが、約1万と言われる政党支部が含まれていない。
透明性、外部からのチェック機能こそが重要だが、派閥裏金事件は国会議員の政治団体が舞台となったため、政党については話が進んでいない。「政治とカネの問題は度々起きているが、対症療法で進めるので、対策が穴だらけになっている。一丁目一番地の対策は疎かにもかかわらず、政治家は抜本的な対策をやりたがらず、企業・団体献金に話をミスリードしている」と苦言を呈した。 全ての団体でオンライン提出やデータベース化を進めれば、記載の食い違いはAIですぐに見つけられるようになる。政治資金の流れが可視化されれば、不正やいい加減な会計処理に対する抑止力にもなる。「政党を含めた全ての政治団体の収支を検索で照合できるようにし、政党も外部監査の対象にする抜本的な法改正が必要だ」と強調した。
政治資金規正法再改正案を可決した衆院本会議=2024年12月17日
根本的な問題への対応が不十分なまま、企業・団体献金にばかりクローズアップされている国会議論。岩井氏はこう付け加えた。 「はっきり言って、報道各社もミスリードに加担している。透明性、チェックこそ重要なのに、それが終わったようにネグレクトされ、企業・団体献金の話ばかりしている。本質的、抜本的な改革が必要であることを改めて自覚してほしい」

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