航空自衛隊・F15戦闘機 戦後80年、有事に備え“緊急発進”訓練 日本の防衛最前線は…『every.特集』

日本の重要防衛拠点である航空自衛隊・那覇基地で、領空を任されているのは数十人の戦闘機パイロットたち。成層圏に達する“極限の世界”で行われている、F15戦闘機の訓練フライトに記者が同乗しました。戦後80年、有事に備える日本の防衛最前線は…。
日本の領空で訓練を行う、F15戦闘機。
戦闘機パイロット
「これが今90度ダイブ」
上空から地面に向かって、まっさかさま。
“台湾有事”の可能性も指摘される厳しい安全保障環境の中、極限の世界でパイロットは日夜、日本の空を守っています。
指令所
「ターゲット、領空侵入、警告開始」
今回、実際行われている訓練に記者も同乗。空から見えた、日本の防衛最前線は――
航空自衛隊・那覇基地。出勤してくるのは、戦闘機パイロット・大久保俊政さんです。
那覇基地F15パイロット 大久保俊政 1等空尉(33)
「いつも通り安全にフライトができるように、何も考えないように淡々と出勤しています」
飛行歴12年、日本の「トップガン」と言われる、空中戦の専門課程も卒業したプロ中のプロです。
この日、行われるのは…
大久保さん
「2機で対領空侵犯措置の訓練を実施します」
領空に侵入するおそれのある国籍不明機に対して、戦闘機を緊急発進し、侵入させないよう対処する、パイロットが日々従事する任務。
大久保さん
「(国籍不明機は)どのような行動をするかわかりませんし、それに対する通信も制限されているということで毎回緊張します」
若手パイロット・山口航平さん(2等空尉)を大久保さんが指導します。
国籍不明機への緊急発進・スクランブルの回数は2024年度、航空自衛隊全体で704回。うち、7割近くが中国機で、特に那覇基地がカバーする南西地域は中国の軍事活動が活発化。
5月3日には、尖閣諸島周辺で領空侵犯をした中国海警局のヘリにも、この基地から緊急発進で対応。
那覇基地はまさに、緊急発進全体の約6割を担う、日本の重要防衛拠点なのです。拠点を任されるのは、わずか数十人の戦闘機パイロットたち。
今回、記者が特別に実際の訓練に同乗できることに。実は、同乗者も事前に訓練を受け、合格しなければなりません。
記者も、戦闘機が経験しうる、さまざまな低圧環境を再現する訓練装置に入り、低酸素状態や耳抜き等の対応を学んだ上で、この日を迎えていました。
日本テレビ政治部 細川恵里 記者
「圧迫感が」
体重の何倍もの重力加速度(G)がかかることがあるため、耐Gスーツと呼ばれる特殊な服を装着。
大久保さん
「行ってきます」
記者は、大久保さんの機体に乗り込み、いざ訓練へ。那覇から北西約100キロの東シナ海へ向かいます。
大久保さん
「じゃあ、あがりますね」
雲をかきわけ、進む機体。一気に上空3000メートルほどに。
大久保さん
「時速700キロくらい出ています」
記者
「全然わからないですね」
まずは、機体を旋回させ重力加速度=Gをかける、パイロットの基本訓練。
大久保さん
「Gかけます、軽めです。これが4Gくらいです」
体重の4倍の重力がかかっていることに。身体が座席に押しつけられるように感じます。
記者
「なかなか、おなかに力が…」
装着した耐Gスーツが自動的に太ももや下腹部を空気圧で締め上げ、脳への血流を維持して、失神を防ぎます。さらに…
大久保さん
「気合入れてください」
スロットルレバーを倒し、加速しながら急旋回させると…
さらにGをかけていきます。身体が機体にねじこまれるような圧力を受け、視界がぼやけます。
大久保さん
「8.4Gです」
記者
「これを当たり前にされているの本当にスゴいです」
大久保さん
「なのでGは結構キツいです」
「今から上、上がりますね」
さらに高い高度へ。空気の密度が低くなり、機体のバランスがとりづらくなるため、独特な操縦技術が必要だといいます。
記者
「高度計がスゴい勢いで上がっています」
大久保さん
「ここまでです。4万9000フィート」
通常の旅客機の飛行高度の1.5倍、高度約15キロ、成層圏に達します。
大久保さん
「空が、上を見れば黒いんですよ。地上で見る空の色と全然違うので」
記者
「地球は丸いみたいな感じ」
こんな特殊な環境で行われる、対領空侵犯措置の訓練。
領空に侵入しようとする1機の国籍不明機役に対し、編隊長役の若手・山口さんと2番機役の大久保さんが緊急発進。山口さんが直接、侵入を阻止します。
領空に近づく国籍不明機のもとへ向かう2機。
山口さんの“想定外”にも対応する力を鍛えるため、後ろを飛ぶ大久保さんが、山口さんを見失ったという設定を突如、加えます。
大久保さん
「ツー・ブラインド(2番機が見失った)」
すぐさま振り向き、機体を振って自分の場所を示す山口さん。
山口さん
「ビジュアル10(10時の方向に自分がいる)」
大久保さん
「リクエスト、ヘディング(方向を教えて)」
山口さん
「240(ツーフォーゼロ)だよ(240度の位置)400ノット(の速度)」
大久保さん
「ビジュアル(見えた)」
無事、見つけてもらうことができたものの…
大久保さん
「遅れるぞ」
山口さんは“想定外”への対応に手間取り、国籍不明機への接近が遅れてしまいました。
大久保さん
「戦闘機パイロットが直接目視をして、この飛行機はどこの飛行機ですと確認しないといけない。遅れがあることは許されない」
国籍不明機に近づく、山口さん。目視で機体を確認し、所属国名や航空機の機種などを地上の指令所に報告します。
山口さん
「ターゲット、黄国、官用機かける1(1機)」
指令所
「通告内容、ライト・ターン・トゥー・サウス(時計回りで南へ)、英語」
指令所は通告する内容や使用する言語を指示。
山口さんは、相手国機が領空に入らないよう横付けしながら通告を実施します。
山口さん
「注意注意/Attention attention.」
「こちらは航空自衛隊/This is Japan Air Self-Defense Force.」
「あと20マイルで日本の領空に侵入する/You will violating Japanese air space at 20 miles.」
「時計回りで南へ、時計回りで南へTurn right to South. Turn right to South.」
ところが、相手国機は従いません。
山口さん
「通告1回目を実施した。ターゲットの行動に変化はみられない」
さらに…
指令所
「ターゲット、領空侵入、信号射撃等によらない、音声による警告開始」
山口さんは領空に侵入した機体にさらに近づき…
山口さん
「警告警告/Warning warning.」
「日本の領空に侵入している/You’re now violating Japanese air space.」
「左回りで360度方向へ/Turn left to 360.」
相手国機に音声での警告とともに、機体を左右に振って警告します。
山口さん
「理解したなら、翼を振れ/If you understand, make rock wing.」
翼を振る相手国機。警告によって、相手国機は従いました。
山口さん
「領空侵入誘導開始」
大久保さん
「最終的に見つけて接敵しているので、しっかり対処の位置に行けて良かったです」
訓練はさらに続きます。次は、フレアを発射する訓練。
山口さんの機体から発光体が。フレアは本来、飛来するミサイルをかわすために、おとりとして発射する装備ですが、よく目立つため、警告としても使われ、2024年9月、領空侵犯したロシア軍機に対しても発射されました。
最後は、ミサイルなどで攻撃するため、互いに相手の後ろをとろうとする「ドッグファイト」と呼ばれる訓練。
大久保さん
「ターン・イン・ファイツ・オン(訓練開始)」
すれ違いざまに山口さんの後ろにつこうと、降下しながらまわりこむ大久保さん。その動きからわずかに目を離してしまった山口さんは、気づいてすぐに旋回を強めようとしますが、大久保さんに後ろをとられてしまいます。
大久保さん
「ノック・イット・オフ(訓練終了)」
「(山口さんの)旋回のタイミングが少し遅かった。判断するのは上空での(自分の)目なんです」
時速800キロを超える高速で、互いに動く戦闘機同士。わずかコンマ数秒の判断の遅れでも大きく結果が変わってしまうのです。
これで訓練は終了。約90分のフライトを終え基地に帰還。
大久保さん
「(訓練で)2回飛んだ後も(緊急発進の)待機とかもあるので、そういうときは疲れます。待機じゃなければ帰りたいです」
過酷な環境で任務に励む大久保さん。その原動力は――
大久保さん
「遊ぶ人~」
子どもたち
「遊ぶ!」
戦闘機を降りれば、3人の子どものパパ。
記者
「基地にいるときと表情が違いますね」
大久保さん
「基地でフライトしているときより忙しいです」
不規則な勤務が続く大久保さんにとって、家族と食卓を囲むのは、週に2回ほどの貴重な時間。
大久保さん
「家族を見ながら飲むお酒が一番おいしいです」
妻の真希さんは、どんなに朝早くても大久保さんの出勤を見送るようにしているといいます。
妻・真希さん
「なるべく行ってらっしゃいはできるようにしたくて、ちょっと危ない仕事なんだなと私自身も感じますし、本当に気をつけて頑張ってねという思いがいっぱいです」
有事のときには、最前線で敵に相対することとなる戦闘機パイロットという仕事。
大久保さん
「最前線で壁となれるように、かつ生きて帰ってこられるように日頃から訓練しています。最前線で国を防護できるということに誇りを持っています」
(5月27日「news every.」より)

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