山形県米沢市で2023年夏に熱中症で亡くなった島扇乙葉さん(当時13歳)の両親と市教育委員会が作成した、熱中症対策の手引「乙葉リーフレット」。乙葉さんは何事にも一生懸命で、優しく頼りがいがあった。両親は再発防止への願いを込めて、手引に娘の名前を加えた。(岩峪諒)
両親は、乙葉さんが亡くなってからしばらくは「そっとしておいてほしい」として、娘の氏名を取材などで明かさなかった。だが、その後「娘のことを知ってもらい、同じことが二度と起こらないように」との思いを強くし、乙葉さんの名前を付けた手引の作成を決意した。
乙葉リーフレットはA3判の二つ折りで、両面フルカラー。市教委が作成した教職員向けの指針を基に、両親と市教委が協議を重ねて作成した。熱中症予防のためにするべきことを簡潔にまとめたほか、熱中症の症状を具体的に紹介し、子どもが自分で異変に気づけるようにした。乙葉さんの同級生・後輩や母・郁美さん(39)らが描いたイラストもつけ、小中学生でも理解できる内容に仕上げていった。
市教委は18日以降、市内の小中学校の児童・生徒などに配布する予定だ。
手引を作る際に参考にしたのは、AED(自動体外式除細動器)使用の手引「ASUKAモデル」だ。さいたま市の小学校で11年、桐田明日香さん(当時11歳)が駅伝練習後に亡くなる事故が発生。AEDが使われなかった反省を生かし、明日香さんの名前にちなんだ同モデルが作成された。乙葉さんの両親、直人さん(41)と郁美さんは、明日香さんの母親にも会い、手引を作るアドバイスをもらった。
米沢市立第三中学校の1年生だった乙葉さんは、23年7月28日午前、夏休みの剣道部の練習を終え、自転車で帰宅途中、市内の国道121号の歩道脇で倒れた。のり面に倒れているのを通行人が見つけ、乙葉さんは病院に搬送された。
郁美さんは当時のことを「熱中症といっても、病院で点滴を打ち、時間がたてば回復するものだと思っていた」と振り返る。だが、乙葉さんは多臓器不全を引き起こし、内臓から出血して亡くなった。現実を受け入れられず、同時に熱中症の恐ろしさを知ったという。
乙葉さんは小学6年生の時に、地元の自然を学ぶ「緑の少年団」の活動で、樹木を供養するために建てられた石塔「草木塔」など地元文化の学習・発信に取り組み、全国育樹祭の大会で国内最高賞を受賞。将来、地元の自然に関わる仕事に就きたいと夢を抱いていた。直人さんは「本当にすごい子だった。これからの子だったのに」と悔しさを語る。
中学校の3年生の教室には、今も乙葉さんの机があり、机には好きだったキャラクターのぬいぐるみが置かれている。クラスメートは、乙葉さんのお気に入りのTシャツに書かれていた「You made my day(あなたのおかげで幸せな日になったよ)」という言葉を大切にしているという。「乙葉の魂は今も学校にあると思う」。郁美さんはそう語る。