性暴力の被害者らに寄り添うNPO法人「性暴力救援センター・大阪SACHICO(サチコ)」が苦境に立たされている。平成22年に相談から診療、警察との連携まで担う全国初のワンストップ支援センターとして設立され、民間病院を拠点に24時間対応。令和4年度の相談件数は4千件超と設立時の約3倍になる一方、人手不足で運営態勢の維持が困難となり、公立病院への移転も模索している。
自責で抱え込む人も
「しんどいです。話をしに行っても、いいですか」。大阪府松原市の阪南中央病院内にあるSACHICOの事務所には昼夜を問わず、被害者から電話がかかってくる。
相談内容は交流サイト(SNS)で知り合った相手からの性暴力や職場でのセクハラ、保護者による性的虐待などさまざま。被害者が自責の念にさいなまれ何年も抱え込んでいたケースもある。「あなたは悪くない」。相談が長時間に及ぶ場合や緊急性が高い事案では被害者が来所し、支援員は、涙ながらの訴えに耳を傾ける。
「2024年問題」が影響
SACHICOは同病院の産婦人科医だった加藤治子前代表(74)が設立し、15人ほどの支援員が従事。病院拠点型で被害直後の初期対応と総合的な支援が可能で、相談を受けるほか、医師の診療に付き添ったり事件化を見据えて警察への仲介にあたったりする。外部の弁護士や精神科医とも連携する。
平成22年度の相談件数(延べ)は1463件、診療人数は128人だったが、令和4年度にはそれぞれ4231件、406人に増えた。診療は同病院の医師らが業務の合間に対応してきたが、一部の医師が産休に入るなどし、24時間対応が難しくなっている。
医師の残業規制が強化される「2024年問題」ものしかかる。病院側は「できる限り協力したいが、来年から時間外や休日での労働に上限が設けられ、現在の運営は限界」と吐露する。
阪南中央病院での診療が難しい場合、府内に10カ所ある協力病院のいずれかに仲介しているが、支援員はほぼ付き添えないという。加藤さんは「性被害は声を上げにくい。相談しやすい態勢を維持できなければ苦しい思いを抱えた被害者が増えるばかりだ」と話す。
年間の運営費のうち、支援員の報酬や性被害の証拠の保管費用、事務所の賃料などは国と府からの補助金計約1500万円でまかなっているが、医師の人件費は病院側の負担だ。経営状態に左右される民間病院では活動に限界があり、SACHICOは公立病院への移転の意向を府に伝え、態勢維持を模索している。
SACHICOの副理事長でもある山口大学大学院の高瀬泉教授(法医学)は「ワンストップ支援センターは利益を生む事業ではなく、民間病院には負担が大きい。国や自治体は公立病院などへの設置を進めるべきだ」と指摘する。
国も「公立病院への設置」言及
政府は6月に決定した「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」で、性犯罪・性暴力対策の強化を柱の一つに据えている。「ワンストップ支援センターを中核とする被害者支援の充実」を挙げ、自治体への交付金を財源に24時間態勢の整備を推進する方針だ。
内閣府によると、ワンストップ支援センターは各都道府県に少なくとも1カ所設置され、4月時点で全国に52カ所ある。24時間対応は21都府県で夜間・休日の対応が困難な場合は、内閣府設置のコールセンターが相談を受ける。
52カ所のうち、大阪SACHICOを含む「病院拠点型」は12カ所にとどまり、「相談センター中心連携型」が37カ所に上る。
重点方針では病院へのワンストップ支援センター設置を進めるとし、中長期的支援を見据え「公立病院や公的病院への設置や提携」に言及した。医療人材の育成を促すとともに、対応できる診療科ごとの医療機関リスト作成も検討する。(北野裕子)