九州北部と九州南部の銃剣道大会は「死合い」になる…地域によってまるで違う陸上自衛隊員の気質と特徴

※本稿は、ぱやぱやくん『「もう歩けない」からが始まり』(育鵬社)の一部を再編集したものです。
陸上自衛隊の部隊は、北は北海道から南は沖縄まで全国にあります。陸海空合わせると、北は稚内、東は南鳥島、南は小笠原諸島、西は与那国島と、もはや一般人がたどり着けないエリアまで勤務地が存在します。
みなさんは、陸上自衛隊のどこの部隊も、隊員の気質(職場の雰囲気)のようなものは、あまり変わらないと思われるかもしれません。しかし、実は、それぞれの地域の気質は結構出ます。また、何の職種で何を担当している部署なのかでも大きな差があります。
あくまでも私の独断と偏見ですが、地域性に焦点を当てて解説していきましょう。
北海道は、陸上自衛隊の最大勢力です。特に、昔は北の守りを意識していたため、北海道民の採用だけでは足りずに、九州や東北の若手を次々と送り込んでいきました。そのため、北海道の部隊は北海道民のおっとりした気質のほか、九州や東北の文化が混じり合う「蝦夷共和国」的な雰囲気があります。
北海道出身者は寒冷地に対する適応力があり、北海道の部隊の人は「大自然の脅威」に対する意識がかなり強いです。北海道外から来た隊員が、北海道の自然を見下したような発言をすると、本気で怒られることもあります。クマ、大雪、寄生虫(エキノコックス)など、北海道特有の脅威があるからです。
一般的に穏やかな人が多いように見えますが、九州とはまた違う血の気の多さがあり、東北の人たちよりも荒くれ者が多いです。特に北海道の部隊は、「エリート意識」を持っている隊員が一定数いるため、
「関東の部隊は、こんな狭い演習場で訓練をしているのですか?」
などの発言をしてうとまれる隊員がいるのも事実です。
また、北海道出身者は北海道愛が強く、
「北海道なら~」 「北海道では~」 「北海道だったら~」
と北海道の話ばかりします。つまり、彼らの頭の中では、北海道こそが世界の中心なのです。本州のことすら「内地」と言い、「この前、旅行で内地に行ってきた」とざっくりした話し方をします(東京も大阪も「内地」です)。つまり、中華思想ならぬ北海道思想と言えるでしょう。
ただ、暑さに慣れていない人が多く、道外で夏の訓練があるとゲッソリしている姿もわりと見ます。特に、空挺(くうてい)団などの精鋭部隊に配属された隊員には、「体力的には問題ないが暑さに弱いのが課題」という隊員が一定数いるのも特徴でしょう。
関西地方の自衛官をひと言で表すと「濃すぎる」です。体育会系のノリと徹底的にお笑いに対して貪欲なのが特徴です。
中学生のころからお笑い芸人になるために命をかけてきたけど挫折して入隊してくる隊員や、両親から野球以外の喜びを知らない野球アンドロイドとして育てられたけどプロに入れるレベルじゃないので入隊してきた隊員、なんかオモロそうだからノリで入隊した隊員など、関東とは一味違った濃さがあります。関西出身の隊員のエピソードだけで本がマルっと1冊書けるレベルのワンダーランドです。
自衛隊は、笑いが許されない組織のイメージが強いですが、関西の自衛官は、隙あらばウケを狙ってきます。
若手幹部が真面目で固い話をダラダラとすると、
「小隊長、その話のオチは何ですか?」
と怒涛(どとう)の「で、オチは?」の攻めに苦しむことになります。関西の自衛官に話をするときは、短くて理解しやすくオチのある話をしないといけません。
もちろん、関西の隊員のノリが嫌いで、本気で怒ってくる指揮官もいますが、関西の隊員にとっては、「攻めすぎて中隊長がキレた!」というのは、むしろおいしいエピソードになります。
レンジャー訓練中の厳しいエピソードも、
「草壁さんが、喉が渇きすぎて草についた朝露をなめまくったら、レンジャークサナメとあだ名された」
などの面白エピソードに変換されます。
陸士隊員でも、ブッコミネタをする度胸のある隊員が多く、ヤクザみたいに強面の曹長に、
「班長、若いころは曹長じゃなくて暴走族の総長だったんでしょ?」
ときわどいボケをぶちかますときもあります。こんなことは九州などの感覚なら許されないことですが、関西ノリだと、
「アホか! なんでやねん!」
で丸く収まったりします。
ただ、関西人の気質として、「わしゃ給料以外の仕事はせんで」という商売人気質の隊員が多く、九州みたいに従順に仕事をしてくれる若手が少ないため、指揮官は苦労します。
こんな関西ですが、まれにメタモルフォーゼ的に、部隊をバリバリと切り盛りする、すごく優秀なスーパー関西人の隊員が現れます。ただし、そんなスーパー関西人も、スーパー九州男児みたいなのが現れると、途端に声が小さくなったりします。それも関西気質でしょう。
隊員が転属先を考えるときに、大阪はコテコテの関西なので、もっとマイルドそうな京都か兵庫に希望を出すと、大阪以上に関西人気質が強烈な土地柄の福知山や姫路などに配属されたりします。ですので、自衛隊内では、大阪と兵庫の境目にある伊丹駐屯地と千僧(せんぞ)駐屯地こそがマイルド関西な感じで至高であると言われています。
九州は、自衛官の名産地と言っても過言ではありません。都道府県として見れば、北海道出身者が陸上自衛官の割合で1番多いのですが、地方としてみれば、福岡、熊本、鹿児島を中心とした戦闘民族九州男児が最大勢力です。
他の地方の隊員が九州に赴任して驚くのが、迷彩服で街を歩いているだけで、知らないおばさんから、
「自衛隊さん、いつも国のためにありがとうございます」
と猛烈に感謝されたりすることです。自衛隊車両で街を走ると、ロックスターを見つけたかのように手を振ってくれる子供たちもいます。
自衛隊に友好的でない街の出身の陸上自衛官は、地元で冷たい扱いをされたり、知り合いから「負け組」などと言われ、辛酸をなめたりします。ですが、九州の人々は、陸上自衛隊に九州の美学を感じ取るため、陸上自衛隊を特別な存在だと思う人が多いです。
極端な例ですが、彼女の実家に結婚の挨拶に行ったら、
「ウチの娘と結婚したければ、陸上自衛隊に入って“漢”になりなさい」
くらいのことを言われて入隊する隊員もいるほどです。
九州は、全国的に見て入隊者が多いため、冷戦の時代はエリート九州男児をソビエト連邦対策で北海道に送り込んだりしました。また、人手不足に苦しむ関西地方の対策のために、九州男児が送り込まれたり、さらに、勤務成績優秀な九州男児は、関東の精鋭部隊などに引き抜かれたりしました。
つまり、陸上自衛隊の半分は、九州男児の血液でできていると言っても過言ではありません。
しかし、優秀な隊員を全国に送りすぎた結果、昭和の時代は、九州の陸上自衛隊は荒くれ者の九州男児だらけになり、くわえタバコにねじり鉢巻の全盛期の吉幾三みたいな隊員だらけになったそうです。
また、あまりにも全国に九州男児を送り込んだ結果、全国の地方のスナックに九州出身の隊員が通い詰め、
「ママ、わしら九州男児やから、いも焼酎が飲みたか~。金は払うけん、黒霧島置いてほしいばってんが~」
とリクエストし、黒霧島が全国区の焼酎になった、という与太話もあるくらいです。
つい、九州男児ばかりに目が行きますが、九州の女性にとって、男と対等に戦える陸上自衛隊はとても魅力的な職場でもあります。そのため、陸上自衛隊に入隊することに抵抗のない女性がとても多いのも特徴です。結果、元女優や元モデルなどのちょっとレベルの違う美人が定期的に入隊してきます。
また、九州の女性は「ぴえん系」のタイプが少なく、むしろ男と一緒に喜んで穴を掘る「エンピ系」女子が多いです。ちなみに、「エンピ」とは陸上自衛隊用語で「シャベル」のことです。
しかし、そんな九州ですが、九州北部の4師団と九州南部の8師団ではまったく雰囲気が違います。
福岡を中心とする九州北部は、炭鉱街や鉄工所などの荒くれ者の文化の血を濃く受け継ぐ隊員が昔は多く、そのころは若い小隊長が赴任すると、「やんごとなき世界に来てしまったなぁ」と思ったそうです。職人気質な人が多く、納得すれば仕事はいくらでもするが、気に食わないと一切仕事をしないタイプが多かったそうです。
逆に、熊本・鹿児島・宮崎の九州南部は、地方全体に愛国心が強すぎる人が多く、まるで大日本帝国がいまだに続いてるパラレルワールドの世界です。「国のために奉仕したい」「男の中の男になりたい」と心から思っている隊員だらけです。特に鹿児島と宮崎の隊員は、薩摩藩の支配地域出身が多く、野武士みたいな顔つきの人が多かった印象があります。
また、九州南部の隊員は、全国どこに行っても鹿児島県人会などを結成し、島津家の家紋と、「チェストー!」と書かれた独立武装勢力みたいな旗を掲げます。
熊本県人会は、鹿児島県人会に負けるのが嫌いなので、加藤清正公の兜のマークに「ひのくに」と書かれた旗を掲げます。「ひのくに」は大和朝廷時代の熊本の呼び名ですので、こちらも独立武装勢力みたいな振る舞いをします。
宮崎県民は、県というよりも地域で団結する傾向が強く、
「俺は、宮崎県出身ではなく、薩摩の支配地域の出身だから、事実上の薩摩出身! つまり、みやこんじょー(都城)の男は、薩摩武士の血が流れとるんじゃ!」
と意味わからないことを言いながら、「みやこんじょー」と書かれた地理的な基礎知識のない人には一切理解できない県人会有志作成の旗を掲げたりします。
とにかく彼らは、日本よりも「薩摩」と「ひのくに」が好きなのです。
この九州北部と九州南部の部隊は、ライバル心の強いことで有名で、4師団8師団対抗銃剣道大会は、恐ろしい熱気と怒号と罵声の中で行われたため、もはや試合ではなく、「死合い」のような状況になっていたそうです。
そのあまりに異様な雰囲気に、審判が精神的プレッシャーに負けて体調不良になる、などの現象が起きたりしました。
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(元陸上自衛官 ぱやぱやくん)

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