新潟県三条市の住宅街で起きている“異変”。「ここにパッカンと入っています」
白い外壁に縦に大きく殊更目立つヒビ…。こうした被害は家の外だけではありません。
「お風呂ですね。ここにクラックが、ヒビが入っているんです」
三条市興野に住む関妙子さん(66歳)が、ある日ふと気が付いたという、お風呂の壁のヒビ割れ。同じようなものは台所の天井にもありました。
三条市の『興野公園』のすぐ裏で、関さんは家族6人で住んでいます。この公園の周辺では、住宅が傾いたり壁にヒビが入ったりする被害が相次ぎ、付近の住民は、この公園で行われている三条市の“工事”が原因だと話しています。
「大きい重機が入っていたので、毎日揺れるんですよ家が」
「大ゲサねって言われるかもしれないけど、震度3くらいのガタガタガタッって揺れが一日に何度も何度も来るので、やっぱりヒビが入ったのかしらって…」
三条市は、興野公園に雨水を一時的に貯めて洪水被害などの発生を防止する『雨水調整池』を作る工事を2021年11月から始めています。
公園の地下に調整池を造るために、重機を使って地面を掘る大がかりな作業が、およそ10か月続きました。
公園に隣接するお宅では、さらに深刻な被害が出ています。家が公園側に10cmほど沈み、傾いているというのです。
「調理していると、ここに水が溜まっていく…」
台所の調理スペースに流した水は、公園側のコンロの方に流れていきました。
スタッフが用意したビー玉を床に置くと、確かに公園側に向かって転がっていくのが分かります。
他にも、開けた扉が勝手に閉まったり、玄関前にヒビ割れができていたりなど…。
この家の女性がこうした被害に気付いたのは、興野公園の工事が始まってから1年が過ぎたころだったといいます。
「残された人生“我慢”しかないのかなっていう…。不安っていうか、なんでしょうね。悔しいですかね、とにかく悔しい」
工事を発注した三条市上下水道課は、工事が原因で地盤沈下が発生し、住宅被害につながった可能性があることを認めています。
【三条市上下水道課 小山正幸課長】「この工事にあたり十分に検討し実施したところではございますけど、結果としてこのような被害が発生してしまったということは大変申し訳なく思っております」
三条市は、公園周辺の住宅8軒で被害が発生し、そのうち4軒では建物が傾いていることを確認していて、9月末には家屋調査を実施しています。
公園周辺の住宅では工事前にも調査を行っていたので、その当時の写真と見比べて被害の一つ一つと工事との因果関係を詳しく調べるということです。
では、なぜ公園での掘削工事で地盤沈下が起きてしまったのでしょうか?
「やっぱりかな、っていうのはちょっとあったな」
住民は『地盤の弱さ』を指摘しています。
「田んぼや沼地みたいなところであれば、地盤がもう“弱い”っていうのは考えられるわけだからさ」「ここも全部田んぼだった。鬼谷内だからね。谷内っていうのは昔からいう沼地」
1961~69年の地図を見ると、興野公園の周辺は田んぼだったことが分かります。近隣住民や三条市などによると、地元の人はこのあたりを『鬼谷内(おにやち)』と呼んでいます。田んぼや沼地など地盤が悪いことに由来する「谷内」に“鬼”が付くほどという意味で、地盤の悪さは地元の人には知られていました。
三条市は、事前のボーリング調査や住民からの指摘で、地盤の弱さは認識していたとしてます。ただ、興野公園が大雨の浸水対策に“最大の効果”を発揮できる位置にあることから、工事を実施することを決めました。そして工事の際は、穴の埋め立て作業を早めたり、重機を振動が少ないものに変更したりと、地盤の弱さに合わせた対策をしていたといいます。
事前のボーリング調査を2か所で行い、その結果に基づいて対策を検討しましたが、想定を上回る地盤の弱さだったということです。
【三条市上下水道課 小山正幸課長】「基本的にはその2か所で十分だったと考えていますけども、結果として局部的に非常に軟弱な部分がありこれを把握できなかった」
被害のあった家屋では三条市が調査を行いました。結果は11月に出る見通しで、工事との因果関係が認められた被害については三条市で補償する方針です。
【三条市上下水道課 小山正幸課長】「工事に起因して発生した被害を特定し、健全な状態に復元できる費用を算定した金銭的補償を基本としております」
ただ住民が気にしているのは補償の範囲です。
「例えば壁の中だとか柱とかそういった部分が、どういう状況になっているのかっていうのが一番不安ですよね。例えば10年後20年後に地震があったときに、この工事によって家が崩れたり壊れたりしても“工事のせい”って言えないですよね…。目に見える部分だけを直すんじゃなくて、今後のこととか不安です」
「長い目で見てもらわないと。補償2年で終わります、5年で終わりますじゃなくて、未来永劫というかずっと見ててもらわないと困ります」
市では住宅の補償について『期限は設けない』としています。
【三条市上下水道課 小山正幸課長】「補償契約を締結した後でも家屋等に変異等が生じました際は、これまでと同様に誠意をもって対応するとともに、工事との因果関係を調査して、工事に起因する被害であれば責任を持って対応して参りたい」
住民が望むのは、マイホームで過ごす今まで通りの『平穏な暮らし』。その“思い”を受け止める誠実な対応が、引続き市には求められています。