「示談は成立せず。今後の展開は…」西武・山川穂高(31)に不起訴処分《“嫌疑不十分”と検察が判断、事件の全真相》

20代の知人女性A子さんに対する強制性交容疑で、5月23日に警視庁に書類送検された埼玉西武ライオンズの山川穂高(31)。東京地検は8月29日、山川を不起訴処分(嫌疑不十分)とした。今後、山川はA子さんとの示談の成立を目指すが、A子さんの処罰感情は強く交渉の先行きはいまだ不透明だ。
山川の事件については、 「文春オンライン」が5月11日に本人に直撃した上で、詳細を報じた 。A子さんは当初、警察に強制わいせつ致傷の罪名で被害届を出していたが、警視庁は2人の間で口腔性交があったことなどから、強制性交容疑に切り替えて書類送検していた。
山川は「同意があった」と説明
強制性交罪が成立するには、加害者が暴行または脅迫を用いて被害者の抵抗を困難にして性交(口腔性交含む)していたと認定される必要がある。山川は5月の記者の直撃取材でも、捜査当局による取り調べでも「A子さんと性行為をした」という点は認めていた。しかし、「(性行為は)無理矢理ではなく同意があった」と説明。つまり、「性行為にあたり、暴行や脅迫などは行っていないので罪は成立しない」という主張を繰り返したのだった。一方のA子さんは「(山川の行為は)無理矢理だった」と、昨年11月の事件以降、性被害を訴え続けていた。
捜査関係者によると、「当日の夜に起こったこと」について、A子さんが供述した内容は以下の通りだ。
「上半身を押さえつけ、そのままベッドに押し倒した」「その後自慰行為を…」
「昨年11月の事件当日、2人で食事をした後、山川は『個室のバーで2次会しよう』と嘘をついてA子を港区のホテルに連れ込んだ。
山川がA子を連れて行った先がホテルだったことにA子は驚いた。従前から『好きではない人とはそういうことはやらない』と言っていたA子に、山川は『本当にお酒を飲むだけだから』と説得してきた。A子は野球選手が“身バレ対策”でホテルでよく飲んでいることを知っていたので、いぶかしがりながらも“ホテル飲み”を了承した。
ホテルで互いに距離を取りながら缶チューハイを飲んでいたところ、山川が突然A子に近づいてきて、ベッドに押し倒しながらキスを始めた。嫌がるA子の服を脱がせ、山川は体中をなめ回した。その後、彼女の片膝を両足で挟み込み、動けない状態にすると、片腕を強くつかみ、山川はもう片方の手で彼女の下半身を弄り始めた。A子は『いや、やめて』と何度も懇願したが山川は無視。彼女を押さえつけるために、常に山川が覆い被さっているような状況が続いていたといい、A子は身動きがとれなくて、とても息苦しかったと訴えている。
その後、山川はA子の顔を両手でつかむと、自身の下半身を近づけ、口での行為を強いた。さらに山川が挿入しようとしたためA子は『やめて!』と強く訴えた。それでも山川は止まらず、今度は(正常位で)挿入するために、A子の上半身を押さえつけ、そのままベッドに押し倒した。下半身は比較的動かすことができる態勢になったのでA子が全力で体を動かし、挿入を避けていると山川はついに断念。しかし、その後自慰行為を始めた。A子に『(射精し)終わるまで帰れないからな』と言う山川の傍らでA子は放心状態でいた――。
山川が果てたのち、部屋の電気をつけたA子がベッドを見ると、山川が、手に付いた彼女の下半身の血を拭いたとみられる跡がシーツのあちこちに残っていた」
A子さんは片膝を山川の両足で挟まれたり、山川の体が覆い被さってきたなどの“暴行”によって体の自由を奪われ、性行為を強いられたと主張していたという。また、「終わるまで帰れないからな」などと言われたことも“脅迫”にあたるとして、罪の成立を訴えていた。
一方の山川は「無理矢理ヤルほどいかれていない」と「文春オンライン」での記者の直撃にも答えていたように、捜査当局にも「キスを受け入れられた」「A子の主張する『やめて』という懇願は聞いていない」と説明。「そもそもオレは女性には困っていない」などと主張していたことがわかっている。
全国紙司法記者が明かす。
山川のケースも「起訴するほどの証拠がないという判断」
「強制性交罪は大変重い罪で、もし仮に裁判で有罪となれば、大抵執行猶予はつかず一発で実刑となる。そのため、同罪に対する立証のハードルは高い。
つまり、性行為に際して暴行や脅迫があったと認定された上に、被害者の抵抗が著しく困難だったことも証明できないと有罪にならない。今回のケースで言えば、A子さんが行為の途中で山川から逃げられる可能性が、少しでもあったとすると、検察としては起訴まではもっていきにくかったと思います。
実際、捜査関係者によると、A子さんは山川との行為の前にシャワーを浴びていたり(A子さんはブーツでむれた足を流しただけと主張)、行為が終わり山川が帰った後に何事も無かったかのような様子のLINEメッセージを山川に送るなど(A子さんの弁護士は性被害者にみられる迎合反応だと主張)、山川に有利な“客観証拠”もあったそうです」
動画など決定的な証拠がない場合、証言だけで性犯罪を立証することになるが、非常な困難を伴う。これが、性犯罪で不起訴の判断が相次ぐ原因の一つとなっている。
「今回の山川のケースも、不起訴の理由は嫌疑不十分。“疑わしきは罰せず”、つまり、起訴するほどの証拠がないという判断でした」(同前)
しかし最近の社会的トレンドとして性犯罪にはますます厳しい目が向けられている。例えば、元陸上自衛隊の五ノ井里奈さんが性犯罪を受けたとして元同僚らを訴えた事件で、検察は昨年5月、証拠が乏しく証言しか得られなかったことを理由に、不起訴処分を下していたが、「捜査が尽くされていない」として、同年9月、検察審査会は「不起訴不当」の議決をした。再捜査をした検察は、今年3月17日、一転して強制わいせつ罪で起訴。6月29日の福島地裁での初公判を皮切りに、無罪主張をする加害者の元自衛官3人の刑事裁判が行われている最中だ。
さらに6月17日、性犯罪に関わる刑法改正が成立、7月13日に施行され、強制性交罪は不同意性交罪と名称が変更された。山川が起こした昨年11月の事件に法律が遡って適用されることはないが、性犯罪に詳しい弁護士は「不同意性交罪であれば、山川は起訴されていた可能性がある」と指摘する。
従来よりも立証のハードルが下がる
「従来の強制わいせつ、強制性交罪は、被害者が加害者に抵抗するのが困難な状態にあると立証する必要があり、その要因は加害者による暴行と脅迫によると限定していた。改正された不同意わいせつ、不同意性交罪では、被害者が性行為に同意していなかったと立証する必要があるが、その要因は暴行と脅迫に限らず8項目と広がった。この中には『意思を示すいとまがない』『恐怖・驚愕』『経済的・社会的地位の利用』といった今回の山川選手のケースに適用されうるものもあり、従来よりも立証のハードルが下がる可能性が高いです」
山川にとっては一命を取り留めたとも言える「不起訴処分」。しかし、刑事事件としては一応の結論が出たものの、山川とA子さんとの間にはいまだに示談が成立していない。このまま示談が成立しなければ、山川はA子さんに損害賠償を求める民事訴訟を起こされる可能性もある。さらにA子さんが検察審査会に不服を申し立てる可能性も拭えず、山川にとっては試練の日々が続く。
(「週刊文春」編集部/週刊文春)

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