岸田首相は28日、東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を巡り、中国からとみられる迷惑電話が日本国内で多発し、中国の日本人学校に投石があったことなどについて、「遺憾なことだと言わざるを得ない」と批判した。
首相は「(中国政府は)国民に冷静で責任ある行動を呼びかけるべきだ」との考えも示した。中国が日本産水産物の輸入を全面停止したことに関しては、「今週中に政府横断的に支援策の具体的な内容を整理し、私から説明したい」と表明した。首相官邸で記者団に語った。
これに先立ち、外務省の岡野正敬次官は、中国の 呉江浩 駐日大使を同省に呼び出し、「電話などの嫌がらせが多数発生しており、状況の改善がみられない」と指摘。「極めて遺憾で、憂慮している」と抗議した。水産物の輸入停止措置の即時撤廃も重ねて求めた。
政府が中国への働きかけを強めているのは、中国の反日的な動きが加速しているためだ。東京電力は28日、処理水放出を始めた24日以降、複数の拠点に計6000件以上の国際電話があったことを明らかにした。多くが中国の国番号「86」で始まる番号だった。
放出とは無関係な施設にも中国から電話がかかっている。福島県双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館への電話は28日までに約440件に上った。東京都の中野区役所に1700件以上、臨海部を管轄する警視庁東京湾岸署(江東区)には約1270件に上った。
日本語で「バカ」などと罵倒したり、中国語でまくしたてたりするケースがあったという。
経済的な影響はさらに拡大する恐れがある。一部の中国メディアは、中国の旅行会社の多くが日本への団体旅行に関係する積極的な宣伝や販売促進を見合わせていると報じた。
予約のキャンセルも相次いでおり、日本行きの航空券は行き先によっては大幅に値下がりしているという。旅行予約サイトでも、日本向け旅行の案内をHP上の目立たない場所に変更したり、欧州など他国・地域への販促に切り替えたりする動きもある。中国は今月10日に日本への団体旅行を約3年半ぶりに解禁した。
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中国外務省の 汪文斌 副報道局長は28日の記者会見で中国からの迷惑電話について、「状況を把握していない」と述べ、直接の論評を避けた。汪氏は「中国は一貫して法に基づき、外国人の安全と権利や利益を守っている」とも主張した。