歯がみしている。東京電力福島第1原発の処理水放出開始を口実とした中国側の日本たたきや、海産物の風評被害に屈した企業に対してだ。
むろん、誰が何を言おうと「常磐もの」と呼ばれる福島産や、三陸産の海産物が安全という事実が揺らぐことはない。これらを忌避する動きに対しては、正確な情報を淡々と伝え続けていくのみである。
それに、国内外問わず、大方の人々の受け止めは冷静であることも、これではっきりした。
東北の魚介類を売る最重要拠点といえる豊洲市場の東京魚市場卸協同組合は、「どこの海で取れた魚も公正に扱う。そこに風評は介入させない」「魚のプロである自分たちが被災3県の魚を積極的に売る姿を示し、消費者の不安を払拭する」と宣言してくれた。
大手スーパーや流通などの数社も放出開始直後、「科学的根拠に基づき、これまで通り福島産、三陸産の海産物を扱う」と表明。香港のすし店でも、「日本産の生の魚介類を食べることに不安はない」と、普段と変わらぬ長蛇の列ができた。福島県いわき市の「海の駅」の鮮魚コーナーは応援の言葉とともに売り上げが増え、同市へのふるさと納税額は急増しているという。
また、意外でありつつもうれしく、ありがたかったのは韓国の科学的態度だった。
処理水放出に先立ち、原発の現地調査にあたった韓国原子力学会は「放出は韓国民の健康と海洋環境に影響を及ぼさない」と結論付けた。
さらに同学会は「感情的、経済的、または国際政治的観点から、放出に反対することはできよう」と、反日感情の強い野党政治家や国民を想定しつつ、「政治的目的や個人の影響力誇示のために科学的事実をねじ曲げ、過度な恐怖を助長するのは、水産業界と飲食業界の被害を自ら加重する自害行為になる」とまで言い切ったのだ。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領率いる韓国政府は、立場の違いもわだかまりも越え、ただエビデンスのみに基づく「真の公平さ」を示してくれた。
ひるがえって、本邦では〝政治的目的や個人の影響力誇示のために科学的事実をねじ曲げ、過度な恐怖を助長する〟向きがいまだ絶えない。
「漁業者の不安に寄り添いたい」などと、もっともらしい言葉を着せたイデオロギーを手放さないために、根拠のない虚偽情報を拡散してますます不安を煽るような人と、冷静な判断力を持って風評を一笑に付してくれる人。どちらが本当に〝漁業者の味方〟なのかは、言うまでもなかろう。
処理水放出が、福島第1原発の廃炉に向けた、絶対不可欠かつ大きな一歩であることは間違いない。そして、それが福島の復興の本当の始まりであることも。そこに党派性や政治的主張が入り込む余地などないのだ。