〈 木原誠二官房副長官に公選法違反の疑い 衆院選の選挙事務所家賃を不記載 〉から続く
木原誠二前官房副長官(53)が、2021年の衆院選で、法定上限を超える数の選挙事務所を使用していた疑いのあることが月刊誌「文藝春秋」編集部の取材で分かった。木原氏の元選対本部長が証言し、公職選挙法違反の疑いがある。
木原氏を巡っては、妻が、過去に結婚していた男性の不審死に関して、重要参考人として警察から事情聴取を受けていた事実などを「週刊文春」が報道してきた。
「岸田文雄首相は、9月13日に行われた内閣改造・党役員人事で、木原氏を退任させました。ただ木原氏は、一連の疑惑について記者会見などの公の場で一切説明をしていない。退任したからといって疑惑が無くなるわけではありません」(自民党関係者)
「選挙期間中の借用料」と明言
今回、新たに発覚したのは、2021年の衆院選を巡る“ヤミ選挙事務所”疑惑だ。
木原氏が代表を務める政治団体「自民党東京都第20選挙区支部」は、公示日の2021年10月19日、元自民党東京都議の倉林辰雄氏に対して、「作業場賃借料」として10万円を支払っている。倉林氏は、木原氏が2005年に初当選した選挙で選対本部長も務めた地元の重鎮だ。
倉林氏は本誌の取材に、この10万円は自身が所有する事務所の賃料であることを認め、次のように語った。
「電話作戦なんかも(東村山市野口町にある)ウチの事務所でやったりしましたね。私のところ、都議会議員の時の事務所がそのまま残っていましたから。自宅の前に(事務所が)あるから」
――収支報告書には「作業場賃借料」として公示日に10万円が支払われているが、これは倉林さんの事務所を借りた家賃?
「ああ、そうそう。選挙期間中の借用料」
――選挙のための?
「そうですね」
届け出られない“ヤミ選挙事務所”
公選法は、選挙期間中に設置できる選挙事務所の数に制限を設けている。東京都選管の担当者が語る。
「東京20区の場合、設置できる選挙事務所は候補者個人として1箇所、候補者届出政党として1箇所の合計2箇所までです。この規定に違反して選挙事務所を設置した場合、30万円以下の罰金に処せられます」
「文藝春秋」が8月7日付で選挙事務所について質問状を送ったところ、木原事務所は、東京都選挙管理委員会に届け出た選挙事務所は東村山市廻田町と東久留米市幸町の2箇所であると回答していた。
つまり木原氏は、その2箇所以外に選挙事務所を構えることはできない。東村山市野口町にある倉林氏の事務所は、選管に届け出たくても届け出られない“ヤミ選挙事務所”ということになるのだ。
木原氏はどう答えるのか。事務所に質問状を送ると、弁護士を通じて次のように回答した。
「選挙事務所については、候補者の事務所は東村山事務所、候補者届出政党の事務所は東久留米事務所、それ以外は各政党支部の政党活動(政治活動)のために使用されているものと承知している、と既にお答えしているところであります」
だが、公職選挙法に詳しい神戸学院大学の上脇博之教授は「公選法違反の疑いが極めて強い」と指摘する。
「建物の中で電話作戦が行われていれば、選挙事務所以外の何物でもないでしょう。しかも第20支部の収支報告書では、事務所の家賃であることを明記せず、『作業場賃借料』と記載している。問題を隠す意図があったと見られても仕方ありません」
東京都選管の担当者も選挙事務所の定義についてこう語る。
「一般的には、『選挙運動に関する事務を取り扱う一切の場所的設備をいう』と解釈されています。実態によって判断されますが、たとえば、『この人に電話をかけて欲しい』と差配して、そこで電話をかけるような場所だったり、様々な可能性が考えられます」
だが、木原氏の疑惑はこれだけではなかった。
9月13日に配信した「文藝春秋 電子版」のオリジナル記事「 180万円超の『通信費』 木原誠二前官房副長官の選挙費用“肩代わり”疑惑 」では、倉林氏への一問一答取材の詳細に加えて、別の疑惑についても詳報している。
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 電子版オリジナル)