リノベや建て替えに3900億円を要求も…自衛隊施設の「耐震強化」にはまやかしがある(文谷数重)

【防衛予算概算要求7兆円 これだけの無駄】#5
防衛省は来年度予算で施設の耐震強化を進めるとしている。隊員が勤務する庁舎や居住する隊舎について、特に1982年以前に建てられた建物9900棟を重点に耐震強化するのをはじめ、リノベーションや、建て替えに3900億円を要求している。
一見すると良い話に見える。隊員の安全確保と勤務環境の改善だからだ。
だが、実態からすれば必要性は疑わしい。少なくともこの要求額は過大である。
1つ目には対象に幽霊建物まで含むことである。
施設の建て替えでは、前の建物は不要となる。自衛隊ではその建物は撤去する決まりだ。
ただ、実際には残すことも多い。倉庫に使える、解体撤去費がもったいないといった理屈である。
このような建物は幽霊となる。国有財産だが、本来は不要な建物なので維持費はつかない。耐震性が不足する建物の多くはこの類いである。
この幽霊建物にまで予算を投じるのは間違っている。耐震補強よりも、原則通りに解体撤去して更地にすべきだろう。
2つ目は将来の建物所要を反映していないことだ。今後、自衛隊の縮小は避けられない。つまり建物は余る。その際に残す建物を吟味すれば広範な改修は不要となる。
特に隊舎の必要数は減るだろう。基地内で未婚の下士官兵が暮らす一種の寄宿舎だが、将来、過半は必要なくなるのではないか。自衛隊の縮小に加えて、隊舎制度の抜本的見直しは、募集難対策に必須だからである。隊員集めには、不人気な基地内居住の見直しと、隊外からの通勤拡大は必至である。
実際に隊舎は昔から閑古鳥が鳴いていた。飲酒禁止や清掃義務、巡検の煩わしさから隊舎居住義務のある下士官兵も、別に外に下宿をとっていた。
それからすれば施設強化の対象建物はそれほど多くはない。耐震性が高い建物から残せば耐震補強や建て替えはそれほどは要らないはずである。
■不要建物を含めた一律の改修や更新は無駄づかい
もちろん、脆弱施設の強化そのものは悪い話ではない。たとえば、大災害時の救援拠点に使う自衛隊港湾や飛行場の津波対策や水害対策は必要である。通信や電力、給水、下水処理への耐震性付与も必要だろう。
ただ、不要建物を含めた一律の改修や更新は無駄づかいでしかない。防衛費が増えたからといって野放図に進めてよい事業ではなく、強化する施設の峻別は必要である。少なくとも3900億円の支出は妥当ではない。 (つづく)
(文谷数重/元3等海佐・軍事研究家)

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