岸田文雄首相が経済対策のメニューとして「減税」に言及したことで、「年内に衆院解散に踏み切る」との臆測を呼んでいる。ただ、国民の負担軽減に直結しにくく、一部で「偽減税」の声も上がっている。第二次岸田再改造内閣では、厚労相として初入閣した武見敬三参院議員の人事にも懸念が集まる。元厚労相である立憲民主党の長妻昭政調会長に聞いた。
「岸田首相が示した減税策は、企業・業界にお金を入れ、最終的に国民に渡すという発想だ。国民目線ではない。これでは『中抜き』で結局、格差が拡大する。選挙を念頭にした組織対策の一環にしか見えない」
長妻氏はこう指摘した。岸田首相が25日に発表した新たな経済対策では「減税」のキーワードが関心を集めた。
ただ、「税収増を国民に還元する」として示された検討案は、国民が期待する「所得税減税」や「消費税減税」「ガソリン税減税(トリガー条項発動)」ではなく、「賃上げ企業への減税策」「特許所得などへの減税制度」「ストックオプション(自社株購入権)の減税措置」だった。
長妻氏は「岸田政権は『サラリーマン増税』が批判されて打ち消しに走っているが、根本的な発想がわれわれとは違う。『減税』対象も企業団体が念頭のようだ。結局、利権のあるところを優遇しているのではないか」と切り捨てた。
長妻氏は、岸田政権の人事も懸念する。武見氏の厚労相起用だ。
「露骨すぎる人事だと驚いた。武見氏はかつて日本医師連盟の組織内候補で、支援を受けてきた。『身内びいき』『特定団体に手厚くなる』という疑念を持たれかねない。普通は考えられない人事だ」
武見氏の父、太郎氏は、日本医師会会長を連続13期25年務めた。政府に厳しい姿勢で臨み「ケンカ太郎」の異名もとった。武見氏は大学教授やニュースキャスターを経て、1995年に自民党参院議員に初当選した。当選5回。医師ではないが「厚労族の重鎮」として知られる。
長妻氏が懸念するのは、厚労相時代の診療報酬改定の経験からだ。当時の焦点は、開業医偏重の診療報酬を是正して、救急や産科、小児科などへ配分し、中小病院の再診料を増点することだったが、一筋縄ではいかなったという。
「厚労省は諮問機関『中央社会保険医療協議会』の答申を受け、原則2年に1度、診療報酬を改定する。日本医師会は協議会のメンバーに3人の推薦枠を持っていた。私は推薦枠をなしにしたが、開業医の発言力の強い医師会からは、強い〝抵抗〟があった。医師会は政界、官界に大きな影響力がある」
来年4月には、医師の収入に影響する「診療報酬」と「介護報酬」「障害福祉サービス等報酬」のトリプル改定が行われる。今後、厚労省と日本医師会などとの調整が本格化する。
武見氏は14日の就任記者会見で、医師会との関係性や、利益相反について問われ、「私は医療関係団体の代弁者ではない」と発言している。
ただ、国民はこの構図をどう見るか。
長妻氏は「この局面で、武見氏を厚労相に起用するのはリスクがある。野党として注視し、問題があれば、国会でも指摘していく」と語った。