沖縄県・尖閣諸島周辺の日本のEEZ(排他的経済水域)内に中国が「海上ブイ」を勝手に設置した問題で、岸田文雄政権の対応が問われている。ブイは7月に確認され、政府は中国側に抗議し即時撤去を求めたが、日本の手で撤去はしていない。フィリピンがEEZ内で中国に設置された浮遊障壁を撤去したのとは対照的だ。〝たかがブイ〟だと放置すれば、領土的野心を隠さない習近平政権に既成事実をつくられかねない。
元海上保安官の一色正春氏は27日、X(旧ツイッター)で、フィリピンと対照的に撤去しない理由をめぐり、「海保や海自は行政組織なので政府の命や法令がなければ動くことができません 一番悔しいのは現場の人間です」と投稿した。
問題のブイは、尖閣諸島の魚釣島の北西約80キロ、EEZの境界線である日中中間線の日本側で確認された。ブイは直径約10メートルとされ、黄色でライトが付いており、「中国海洋観測浮標QF212」と書かれていた。
産経新聞が、船舶の運航情報などを提供するサイト「マリントラフィック」のデータを基に分析したところ、中国の海洋調査船「向陽紅22」が7月1日午前11時ごろ、中国浙江省寧波市の沖合を出航。2日午後5時ごろ、日中中間線から日本側に1キロ程度入った北緯26度4分、東経122度44分の位置でほぼ停止した。約1時間半後、中国に引き返しており、この間にブイを設置したとみられる。
「国連海洋法条約違反」
中国も批准する国連海洋法条約では、構造物の設置や科学調査は、EEZを管轄する国にしか認められていない。松野博一官房長官は今月19日の記者会見で、「EEZでわが国の同意なく構築物を設置することは国連海洋法条約上の関連規定に反する」と批判。中国に外交ルートを通じて抗議し、即時撤去を求めたことを明らかにした。
だが、波風を立てたくないのか、日本政府はブイを事実上放置したままだ。自ら撤去することはできないのか。
海上保安庁の担当者は「根本的な法律に違反しているのかは外務省に聞いてほしい。条約上違反があり、仮に撤去しなければならない話でも、どのような手段をとりうるのかは議論になる」と語った。
外務省の担当者は「国連海洋法条約に違反していると考えているが、撤去や没収などがどこまで認められているかは海洋法条約上に規定がなく、慎重な検討が必要だと考えている」との見解を示す。
2013年、16年、18年にも尖閣周辺のEEZ内でブイが確認されたが、「撤去したことはない」(海保担当者)という。