生殖機能を無くす手術を性別変更の条件とする性同一性障害特例法の規定が個人の尊重を定めた憲法13条に違反するかが争われた家事審判で、静岡家裁浜松支部は11日付で「規定は憲法13条に違反し、無効だ」とする決定を出した。同法の規定を違憲とする司法判断は初めて。
最高裁は2019年1月に同法の規定を「合憲」とする判断を示しているが、改めて大法廷が違憲性の審理を進めており、年内にも憲法判断を示す見通し。
特例法の規定は「生殖機能を永続的に欠くこと」を要件とし、性別変更を望む人に生殖不能手術を事実上強いている。家裁支部の関口剛弘裁判長は「当事者にとって戸籍上の性別を変更できることは切実で重要な法的利益。規定は意思に反して身体への侵襲を受けない自由を制約するもので、人権制約の態様や程度は重大だ」と指摘した。
審判を申し立てていたのは、戸籍上は女性で、男性として生活する浜松市の鈴木げんさん(48)。40歳で性同一性障害の診断が出て男性ホルモン投与を受けており、手術無しでの性別変更を求めた。
家裁支部は、最高裁が19年に合理的とした手術規定の目的を検討。最高裁は「性別変更後に変更前の生殖機能で子どもが生まれれば、親子関係で社会に混乱が生じる」としたが、家裁支部は「変更前の生殖機能で子どもが生まれることはまれだ」とした。
その上で、男女が区別されてきた歴史を踏まえても、国内外の社会的状況は性自認の多様性を尊重する方向に進んでおり、急激な変化を避けるという規定の目的の必要性は薄まっていると結論付け、手術無しで鈴木さんが女性から男性に性別を変更することを認めた。【遠山和宏】