与党は近く2024年度の税制改正大綱を決定する。注目されるのが、高校生(16~18歳)の子供がいる世帯の扶養控除の縮小案だ。政府は児童手当を拡充することで手取り額が減らないとアピールするが、識者は「控除縮小は、大増税の前段階だ」と裏読みする。どんなシナリオが書かれているのか。
扶養控除は所得税と住民税に適用される。生計を共にする16歳以上の控除対象の扶養親族がいる場合、課税対象となる所得から一定額を人数に応じて差し引き、税負担を軽減するもので、縮小されれば納税額が増える仕組みだ。
今回の縮小案は、高校生のいる世帯の控除額を、所得税は従来の年間38万円から25万円に、住民税は33万円から12万円に引き下げる。26年に実施する予定だ。
一時は廃止案も取り沙汰されていたため、トーンダウンしたようにもみえる。政府は児童手当の支給を高校生まで拡大、全ての所得層で児童手当の支給額が縮小の影響額を上回るため、実質的に手取り額が増えるとアピールする。
だが、喜んでいい話なのか。
かつては高校生の子供も、19~22歳の大学生らと同様に所得税63万円、住民税45万円の「特定扶養控除」の対象だったが、民主党政権時代の2010年、子ども手当(現児童手当)の創設に伴い、高校生は現在の控除額に引き下げられた。16歳未満の年少扶養控除も廃止されている。
控除を減らして手当を増やす狙いはどこにあるのか。
経済ジャーナリストの荻原博子氏は「本気で少子化対策に取り組むなら、年少扶養控除を復活させた方が家計は助かるのは明らかで、やる気がないのが見え見えだ。控除を含む税制は一度変えると元に戻しづらいが、手当は時の政権の方針で容易に動かせる。将来的に手当も減らされたりなくなったりする可能性もゼロではない」と指摘する。
増税を見据えた狙いもあると荻原氏はみる。
「財務省は将来的な15%への消費税増税を狙っているが、今は物価高やインボイス(適格請求書)導入もあって手をつけにくい。消費税率引き上げと控除廃止を同時にやると反発が大きいため、今のうちに控除縮小という〝実質増税〟を行い、徐々に廃止を目指す思惑かもしれない」
自民党の政治資金問題に世論の関心が集中し、岸田文雄政権の「負担増路線」批判は鳴りを潜めた感がある。
荻原氏は「政治空白が生まれると官僚が幅を利かせやすくなる。国民は財務省の暴走にも監視の目を忘れずに向けるべきだ」と警告した。