東電に約11億円の賠償命令 原発避難者への慰謝料 仙台高裁

東京電力福島第1原発事故で避難指示区域に一時指定された福島県川俣町山木屋に住んでいた原告323人が、東電に対し、古里の生活を奪われたことによる慰謝料などを求めた裁判の控訴審判決が14日、仙台高裁で言い渡された。瀬戸口壮夫裁判長は、東電の事故対応に不手際を認め、1審・福島地裁いわき支部判決の賠償総額を約5億円増額し、原告299人に対して総額10億9891万円の支払いを命じた。
判決は、一部の原告について、進学や就職によって避難が終了したなどとして賠償額を減額するか請求を棄却した。
2021年2月の1審判決は、原告271人に対し「故郷喪失慰謝料」として1人当たり200万円の賠償を認めるなど、総額6億498万円の支払いを命じた。その後、22年12月に国の賠償基準「中間指針」が第5次追補として見直され、ふるさとの変容による賠償額の目安は250万円と示された。
控訴審で原告側は、「山木屋地区のコミュニティーを奪われた精神的苦痛は甚大で、第5次追補が示す損害額は不十分だ」などと主張。故郷喪失慰謝料として1人当たり500万円などを求めた。
判決は、政府の地震予測「長期評価」に基づいて、東電が08年に高さ最大15・7メートルの津波を試算した経緯に言及。東電が対策を講じないまま津波の襲来に至った対応について「極めて遺憾で、根本的に誤りだったことが現実に証明された」と非難した。
そのうえで、判決は「地域社会の大幅な変容は事故によって不可逆的かつ一回的に生じた。住民の努力の成果を一瞬にして奪い去り、精神的苦痛を増大させた」とし、「故郷喪失慰謝料」として1人当たり330万円を認定。また、生活空間の安全を侵害されたとする「線量不安慰謝料」として、妊婦や子どもに同60万円(その他は30万円)を認めた。避難慰謝料については1審判決を支持した。
判決を受け、原告団の菅野清一団長(73)は「1審判決より前に進んだ画期的な判決だ。金額はともかく、原告が10年間頑張った成果が出せた」と評価。弁護団の高橋右京弁護士は「東電の悪質性を認定し、損害額の算定に考慮しており高く評価できる」と話した。
東電は「今後判決内容を精査し、真摯(しんし)に対応する」とコメントした。【松本ゆう雅】

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