松江市の認可保育園で保育士による虐待があったとして、園児だった小学2年の女児の両親が29日、市に対して第三者委員会の設置などを求める要望書を提出した。女児は保育士にトイレに閉じ込められたことで小学校入学後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されたという。一方、市の監査でこの件は虐待とは認められておらず、市こども子育て部の担当者は要望を受け、「内容を確認して今後、対応していきたい」としている。
市内在住でともに40代の両親によると、女児は保育士の虐待を受けて精神的に不安定になり、2021年8月、市内の別の園に転園した。小学校入学後、当時のことをフラッシュバックするようになり24年1月、PTSDと診断された。虐待が原因で退園した園児は他にもいるとしている。
要望書では検証や再発防止のための第三者委員会を設置▽子どもの人権や尊厳を守る制度の改善▽上定昭仁市長との面談――を求めている。また、両親の訴えに賛同し、市の具体的な説明などを求める元園児の保護者ら5世帯の意見書なども提出した。
「閉じ込め、虐待と認めず」
市は21年12月、「不適切な保育が行われている」などとする複数の保護者からの苦情を受けて園の一般監査を実施。毎日新聞が情報公開請求で入手した監査結果をまとめた資料によると、「(園児を)立たせていた」「トイレに閉じ込めてしかった」ことなどは事実と認定した。
一方、園側は立たせていたことを「決められた時刻になっても保育室に入らずテラスで遊んでいた園児に、担任が『今は何の時間か』考えるように促し、一定時間テラスで考えさせた」などと説明。トイレに閉じ込めてしかったことは「トイレでふざけて他の園児を閉じ込めた園児に対し『閉じ込められるとどんな気持ちになるか考えなさい』との戒めから」としている。「保護者の理解を得ないまま独自の考えに基づいた指導」としながら、「保護者の誤解を招く行為」と結論づけ、不適切な保育や虐待とは認めなかった。市の担当者は「前後の指導の状況から不適切とまでは言えない」としている。
監査結果について女児の母親は「娘が言っていたことと違う部分がたくさんある。どんな事情があろうとトイレに閉じ込めることは虐待ではないか。子どもの心に寄り添っていない」と憤る。市に繰り返し説明を求めたが、現時点で納得できる説明はないという。「娘の心がひどく傷つき、虐待だと思っているのに、市が『誤解』としていることに二重の意味で苦しんでいる。しっかりと再検証して説明してほしい」と訴える。
保育園を運営する法人側は、今回の要望などについて「詳細を把握できる立場ではなく、コメントは難しい」とした上で、「疑念を抱かれることはあったが内部調査の結果、不適切なものだとは認められなかった」としている。
「死」を意識する娘
PTSDと診断された女児は不登校の状態が続いている。両親と姉の4人で松江市内で暮らしているが、トイレに閉じ込められたトラウマ(心的外傷)で狭い場所を極度に怖がるようになり、今もフラッシュバックに苦しんでいるという。
両親によると、女児に異変があったのは保育園の年長組だった2021年8月。明るく活発だったが、登園を強く拒否するようになった。両親が事情を聴くと、「先生が怖い」と話し、保育士にトイレに閉じ込められたことを打ち明けたという。あまりに激しく泣き叫んで登園を拒否する姿に、母親は「わがままではない本気のSOSを感じた」と振り返る。市内の別の保育園に転園させ、小学校に入学後しばらくは以前の明るい性格に戻ったように見えた。
しかし、1年の3学期だった23年1月、事態が急変する。女児は夜中に突然、「死にたくない」などと叫び、パニックを起こした。以降は閉じ込められた当時をフラッシュバックするようになり、エレベーターのような狭い空間を怖がるようにもなった。父親は「狭い空間にいると『このまま死んでしまうかもしれない』というイメージが浮かんでくるようだ。『死』を強く意識するようになった」と話す。
小学校にもほとんど通えなくなった。「『トイレに閉じ込められて死ぬような恐怖を感じた』というトラウマによるフラッシュバックで、強い不安や恐怖、焦燥を生じている」として、PTSDと診断された。
父親は「もっと早く異変に気づき、転園させていたら普通の小学生として暮らしていたのだろうか。苦しんでいる娘を見るとかわいそうで……」と声を詰まらせた。
【目野創】