実は東京にたくさんある空き家の実態「多くの空き家は“賃貸用”または…」

総務省が5年ごとに行う「住宅・土地統計調査」(2023年)が発表された。全国の空き家数は900万戸。前回(2018年)調査に比べて51万戸、5.97%の増加。住宅総数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%に達する深刻な状況であることが各種メディアで一斉に報じられた。
たしかに空き家数は1958年調査では全国でわずか36万戸にすぎなかったのが、65年間で25倍になったことになる。また空き家のうち、個人住宅で何らかの理由で誰も住まない放置状態になった空き家数は全国で385万戸、前回調査比で37万戸、10.5%の増加となったことは、人口減少が加速し、高齢化が進む日本で一大社会問題になることが懸念される現象として多くの識者がコメントしている。
空き家率が高いエリアを都道府県別にみると、和歌山県、徳島県の21.2%を筆頭に、山梨県、高知県、長野県といった県でいずれも20%台を記録している。いずれも人口減少が顕著であり、過疎化する地域に悩む自治体名が並ぶ。いっぽう空き家率の低い都道府県は沖縄県の9.3%を筆頭に埼玉県、神奈川県、東京都、愛知県といった大都市圏の都県がランクインしている。
こうしたことから空き家問題は過疎化が進む地方の問題ととらえられがちになるが、実は空き家問題の根底には東京都をはじめとした大都市圏にかなりの数の空き家が存在することに多くの人たちが気付いていないことがある。
東京都の空き家数は90万戸
東京都は空き家率でいえば11.0%、都道府県別では高いほうから44位。東京一極集中がすすむ中で、いまだに人口は増加を続け、全国からだけではなく海外からも人を集め続け、あたかもブラックホールのような状況にある東京都は、常に住宅が不足状態にあると多くの人が考える。
だがそもそも東京都は多くの人が集まる分、住宅の数も桁外れに多い。空き家率で11%といってもこれを実数に直すと、空き家数はなんと90万戸。この数は2位大阪府70万戸を引き離して全国ダントツの1位。全国の空き家の1割が都内に存在することがわかる。そしてこの数は20年前(2003年)の66万5千戸からなんと35%も増加しているのである。
多くの空き家は「賃貸用」または「個人放置住宅」
では東京都内にはどんな空き家が存在するのか、その実態をみてみよう。空き家にはその形態によって「賃貸用」「売却用」「二次的」「個人放置住宅」などに分類される。「賃貸用」はアパートなどの賃貸住宅の空き家、「売却用」とは売却するために空き家としているもの、「個人放置住宅」はこれまで「その他」と分類されていたものを個人住宅で何らかの事情で誰も住まずに放置状態にあるものとして今回調査で明確に定義されたものである。
多くの空き家はこの分類のうち「賃貸用」または「個人放置住宅」に該当する。全国900万戸の空き家のうちおよそ半分の443万戸が「賃貸用」であり先述したように385万戸が「個人放置住宅」である。
東京都内の空き家の多くは実は「賃貸用」空き家だ。その数は63万戸。20年前が46万戸であるからこの間に17万戸、37%もの増加を示している。いっぽう「個人放置住宅」も21万5千戸。20年前の14万戸からなんと54%もの増加を示している。東京都は全国の数値に隠れがちながら空き家が深刻な状況を呈し始めているといえるのだ。
空き家を製造し続ける東京
空き家が急増しているのにもかかわらず、都内の住宅新設着工戸数は2023年で12万8千戸(うち貸家7万戸)。20年前で15万7千戸であるから、18%しか減少していないことになる。東京都の空き家数が同期間で35%伸びているのにもかかわらず新設住宅着工戸数が18%しか減っていないのであれば、同期間の東京都の人口増加率15.4%をはるかに上回るペースで空き家を製造している計算になる。
また空き家といえば腐朽、破損のすすんだ状態の家を連想するが、国土交通省令和元年「空き家所有者実態調査」によれば、全国の空き家の約3割は新耐震基準導入以降建築のものであり、全国の空き家の約4割は最寄り駅から1000m(徒歩約12分)以内に立地する家である。都内でも十分に居住して通勤することが可能な空き家が多数存在することがわかる。
都内の新築マンション平均価格が1億円を超えて話題になるいっぽうで、空き家数は賃貸住戸も個人放置住宅も増加し続けているのが東京都内における住宅事情なのだ。
今後発生する大量相続
東京都内で住宅を買ったり、借りたりすることに絶望的になっている人たちに朗報がある。2024年1月1日現在東京都人口は1391万人であるがそのうち23%に該当する314万人が65歳以上の高齢者だ。また東京都発表の2020年における都内で世帯主が65歳以上である所謂高齢者世帯は206万1千世帯に及ぶが、そのうちの43.4%にあたる89万5千世帯が高齢者単身世帯だ。さらに75歳以上の後期高齢者単身世帯は51万世帯になる。
結論を急ごう。この高齢者単身世帯のうちの多くが、夫婦であればすでに相方が亡くなり一人暮らしになった高齢者だ。どんなにお元気でも人には寿命がある。これからの都内で間違いなく生じるのが大量相続の発生だ。そして相続の場合、夫婦のうちの片方が亡くなる一次相続のケースでは居住している住宅(戸建てもマンションも)が売却や賃貸に供されることは少ないが、ここで掲げた高齢者単身世帯で相続が多発する事態になることは容易に予想される。これが二次相続と呼ばれるもので、家を含めた財産を相続する相続人は、親が80代以上であれば子供である相続人は50代または60代。すでにマンション等を所有しているケースが圧倒的に多いだろう。
どうなるか。相続した、住み手のいなくなった家(戸建てもマンションも)を売却する、あるいは賃貸に供することになる。そしてどちらの決断もしない一部の家が空き家にカウントされていくのである。
Z世代が主流になる頃には…
東京都内の不動産マーケットは、国内外の投資マネーが集まるような一部のブランドエリアを除き、都区部も含めて大量の相続住宅が売却、あるいは賃貸に供され、一部が空き家として放置し続けられるようになる。今の高齢者世帯の状況から推測するにおおむね2030年前後には大量相続の号砲が鳴ることになる。
既存の空き家も含め、マーケットには大量の売却、賃貸物件が拠出される。選べる住宅は選り取り見取り。リフォームマーケットも活況となり、中古住宅をフルリノベーションして自分らしい住宅に仕上げるようなプランが世の中に溢れかえることだろう。そう、Z世代が社会の主流に登場し始める頃には、こんなセリフが登場することになりそうだ。
「えっ、家って多額のローンを組んで買うものだったの? きゃっはっは」
(牧野 知弘)

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