「ウサギの島」として知られる広島県竹原市の大久野島。島内では約500~600羽のウサギが放し飼いにされており、癒しのスポットとして近年高い人気を博している。
そんな“ウサギの楽園”で、ウサギを虐待したとして、動物愛護法違反で起訴された25歳の男の初公判が、3月26日、広島地裁呉支部で開かれた。明かされた犯行の詳細は、集まった傍聴人が思わず耳を塞ぎたくなるような、残忍で身勝手な内容だったライターの普通氏がレポートする。【前後編の前編】
2か月で99匹の死骸
起訴状によると男は、今年の1月9日と同21日に、大久野島に生息するうさぎ計7羽に対して、胸腹部を蹴る、足を掴んで骨を折る、頭部を踏みつけ、首を掴んで口腔内にハサミを入れるなどしてケガをさせ1羽を死なせた。これらの内容について、被告は「間違いはないです」と7件の事実を全て認めた。
環境省・中国四国地方環境事務所によると、大久野島には約500匹のウサギが生息しているが、昨年11月下旬からの約2か月間で計99匹の死骸が確認されているという。足の骨折や、顔に出血があった個体もいたようだ。
事件内容を聞くだけでおぞましい事件であるが、被告席に座る男の様子からは凶暴性は感じられない。
髪は長さ1cmほどの短髪に整えられ、手は膝の上で軽く握っている。顔を大きく動かすことはないが下を向いたり、かと思えば真っ直ぐ前を向いたりなど、キョロキョロしていた。その様子は、現行犯逮捕に貢献した島の写真家が被告を捉えた動画内で、周囲をキョロキョロと見渡す姿そのものだった。マスクで表情は見えないが、落ち着きがないというより、不安に感じている様子に思えた。
被告は身柄拘束されており、住居不定、無職の状態。私服も着用できる中、被告が着用していたのは、胸元に「官」の字が書かれた、拘置所から支給される服だった。
動画には「骨が折れる音」と「悲鳴」
検察官の冒頭陳述によると、被告は元々小動物が好きだった。うさぎの動画を見たり、事件現場となる大久野島に赴いてうさぎと触れ合ったり、動物としての特性を調べることなどもあったという。
しかしその後、うさぎが悲鳴を上げている動画、解体される様子の動画などを目にしてから、「うさぎが嫌がるのを見たい」という思いが芽生えるようになる。その後、4回にわたって大久野島を訪れ、起訴内容以外にも多数の殺傷行為をしたことを自供している。
虐待の様子の一部は、被告人のスマートフォンに動画保存されていた。口腔内に約7cmほどハサミが挿入される様子もあった。これらの情報から複数の起訴事実が特定された。
その動画には、「ポキ」と骨が折れるような音や、うさぎが悲鳴のような鳴き声を上げる様子も残されていた。動画を確認した専門家によると、うさぎは注射を受ける際にも同様の声を上げるといい、悲鳴は痛みを感じている証左であるという。
被告の捜査機関への供述調書によると、起訴事実以外にも毛を抜く、耳を引きちぎる、鼻の穴の間を切るなどの犯行を自供している。
調書の内容が述べられたあと、被告への質問が始まった。被告は「自分は異常だと思った」などと、自身の犯行を振り返った後編記事では、法廷で語られた被告の「動機」について詳報する。
(後編につづく)
取材・文/普通(ライター)