プロ野球・阪神タイガースの18年ぶりとなるセ・リーグ優勝が目前に迫ってきた。過去の優勝時には、大阪・ミナミに大勢のファンが押し寄せて川に飛び込み、死亡事故も起きた。大阪府警は約1300人を動員し、通行規制を実施したり、インバウンド(訪日客)向けに外国語で誘導したりする計画で、雑踏事故などへの警戒を強めている。
阪神は、最短で14日に甲子園球場(兵庫県西宮市)で行われる巨人戦で優勝が決まる。府警は優勝当日、大阪市中心部のミナミやJR大阪駅の周辺に計約1300人を投入し、重点的に警戒。昨年のハロウィーンの6・5倍の規模で、特に「グリコの看板」があるミナミの戎橋周辺は混雑が予想され、多くの警察官が配置される。
府警が最も警戒しているのが雑踏事故だ。
昨年10月に韓国ソウルの繁華街・ 梨泰院 で、狭い路地に人が流入し、158人が死亡した事故が発生。ミナミなどには同様に危険な場所もあり、緊張を高めている。
戎橋は長さ約26メートル、幅11~18メートル。約190トンの重さに耐えられる設計だが、大勢の滞留を避けるため、府警は周辺5か所に軽妙な語り口で誘導する「DJポリス」を配置。近くのビルの上からも混雑状況を監視し、危険な兆候があれば橋への通行を一時的に規制する。
コロナ禍の制限がなくなり、訪日客が増える中、周辺の商店街では英語や中国語、韓国語、ベトナム語の4か国語で群衆に巻き込まれないよう呼びかける。
府警警備1課の 大下 智士調査官は「人の流れは刻々と変化するので、迅速な対応を徹底したい」と表情を引き締める。
府警は川への「祝賀ダイブ」にも神経をとがらせる。
阪神が1985年にリーグ優勝した際、日本ケンタッキー・フライド・チキンの「カーネル・サンダース人形」が道頓堀川に投げ込まれ、ファンも次々と飛び込む騒ぎに。2003年のリーグ優勝時には戎橋などから約5300人が飛び込んだほか、川に落ちた1人が死亡した。
05年のリーグ制覇時、戎橋周辺にはダイブ防止用のフェンスが設けられたが、55人が飛び込んだ。若者らが警察官に体当たりしたり、交番のガラスを割ったりする事案も起きた。
府警などは今回、「優勝を祝いたいファンの心理も考慮したい」として、フェンス設置は見送る方針だが、状況に応じて戎橋両側のスロープ(幅約2メートル)や、川沿いの遊歩道を封鎖して対応。さらに道頓堀橋の東側をシートで覆い、戎橋の方向を見えなくして通行人らが滞留したり、ダイブをあおったりするのを防ぐ。
本拠地・甲子園球場を管轄する兵庫県警は、阪神が甲子園で優勝した場合、その直前や当日、530人態勢で警備にあたる。対象は球場やJR三ノ宮駅など3か所周辺。球場周辺では、警備員と連携して観客を駅に誘導するなどし、厳重な警備態勢を敷く。
専門家は雑踏事故などへの注意を呼びかけている。
関西大の川口寿裕教授(群集安全学)は「橋の上は横への逃げ道がない点で梨泰院の事故現場と共通しており、リスクが非常に高い。一方通行にするなどして人を立ち止まらせないことが重要だ」と指摘。大阪工業大の吉村英祐特任教授(建築安全計画)は「SNSの普及や訪日客の増加で前回の優勝時より多くの人が集まる可能性がある。危険な場所に近づかず、身動きできなくなる前に引き返してほしい」と話した。
騒動警戒早じまいの店も
関西の商店主らは地元球団の優勝を心待ちにする一方、騒動を警戒して早じまいを検討する店もある。
「日本一早いマジック点灯」で知られる兵庫県尼崎市の尼崎中央三丁目商店街では、阪神の優勝翌日にマジックを「ゼロ」に替え、セールや記念品の配布を行う予定。商店街振興組合の理事長(62)は「地元では、岡田彰布監督が優勝の意味で使う『アレ』がいつかと、ずっと話題になってきた。ぜひ甲子園で決めてほしい」と期待を口にする。
一方、2003年の優勝時に名物の動くカニ看板から目玉をもぎ取られた大阪・ミナミの「かに道楽道頓堀本店」は、優勝当日の閉店時間を前倒しすることを検討。店長(47)は「街が盛り上がるのはうれしいが、看板を壊されないか不安だ」と気をもんでいる。