岸田政権の新たな外交の顔となった上川陽子外相は、18日から、国連総会が行われる米国・ニューヨークを訪問し、外相として国際社会に本格デビューする。現地では今年のG7議長国として、G7外相会合を開催するほか、ブリンケン米国務長官や、オーストラリア、インドネシアの外相らと個別会談を行う予定だ。
アメリカに留学、米議員の政策立案も経験
上川氏はこの訪米について15日の会見で、「ロシアによるウクライナ侵略により、国際秩序の根幹が揺らぐ歴史の転換点ともいうべき時代を迎えている。本年、安保理理事国、G7議長国を務める日本として、『法の支配』とその中核を担うべき国連の重要性、安保理改革を含む国連の機能強化について、強いメッセージを打ち出したいと考えている」と語った。
今回の上川氏の外相起用は、政界ではやや驚きを持って受け止められた。林外相の続投を予想する向きが多かったこともあるが、上川氏がこれまで外務省の副大臣や政務官など、政府や党、国会の外交関連のポストに就いてこなかったことも一因だ。
ただ、上川氏はかつて、アメリカのハーバード大学大学院に留学したり、米民主党の上院議員の政策立案スタッフを務めた経験をもつ国際派でもある。今年は茂木幹事長とともに訪米する機会もあった。そして外相就任会見では次のように語っている。
「私が政治家を志したのはアメリカに留学していた頃で、今から30年近く前になるが、海外から日本を眺めるという貴重な経験をした。その当時は外から日本を見るという視点を体験することになり、日本を大きな国際社会の中で絶えず変化に対応する改革を進めていく必要があるということを強く感じた」
また、これまで3度にわたり務めた法相在任時には「司法外交」を掲げて、「法の支配」という価値の重要性を世界に広げるための取り組みを推進してきた。その意味では、ロシアによるウクライナ侵攻や、中国の東シナ海や南シナ海での威圧的行動などによって法の支配が脅かされる今、上川氏がどのような外交を展開するかは重要な意味を持つ。
好んで使う3つの四字熟語
では上川氏の政治家としての基本姿勢とはどのようなものなのだろうか。これまでの発言などに着目してみると、3つの四字熟語「鵬程万里」「為政清明」「不易流行」を好んで使っていた。
まず「鵬程万里(ほうていばんり)」は、上川氏が、就任にあたって自らの初心として紹介した言葉だ。はるか遠く離れた道のりをたとえる言葉で、上川氏は「政治家を志した時の、高い理想を掲げて遠く見つめる眼差しをしっかり持って今を刻んでいく。そうした視点で政治活動を続けてきた」と述べた上で、「こうした視点が外交という分野においても特に重要になると思う」と強調した。
「為政清明(いせいせいめい)」は、明治維新の三傑として知られる大久保利通が好んだ言葉で、「政治に携わる者は、心が明るく澄んでいなければならない」という意味だ。上川氏が重視する「国民に理解され、支持される外交」の前提となるものと言えそうだ。
そして、「不易流行(ふえきりゅうこう)」は、「いつまでも変わらないものの中に新しい変化を取り入れる」ことを指す四字熟語だ。上川氏は「変えるものについては変える勇気を。変えてはいけないものについては確信の中で変えないという信念を。変えてはいけないものと変えるべきものとの狭間を見極める知恵が大切」と語っている。戦後、現在の憲法の制約のもとで歩み、日米同盟を基軸にしながら、東アジアとの難しい関係を含む国際外交に取り組んできた日本が、今後何を変え、何を変えないかは、確実に問われることになるだろう。
中国外務省は関係改善に期待
こうした上川外交の試金石の1つが、中国による日本産の海産物の輸入停止や、尖閣諸島周辺への侵入などの問題などを抱える中国との関係だ。
上川氏の外相就任について、中国外務省の毛寧副報道局長は会見で、上川氏が過去に訪中したことなどに言及した上で、「両国の外交部門が共に努力し、対話と協力を強化し、意見の食い違いをコントロールするよう希望している。新時代の要求に合致した、建設的かつ安定的な関係の構築を共に進めたい」と関係改善への期待を示した。
そして上川氏は就任会見で、対中外交について「日本として主張すべきは主張し、中国に対し責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含め対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力をする、『建設的かつ安定的な関係』の構築を双方の努力で進めていくことが重要かと考えている」と語った。
ちなみに上川氏は、自らのホームページ上で、政治家としての基本姿勢として「腰のすわった政治をめざす」「難問から、逃げない」「政治変革の渦へ飛び込む」という3つを掲げている。これを中国との関係にあてはめれば、腰の座った外交姿勢で臨み、難問から逃げずに向き合い、国際社会での国益をかけたパワーゲームの中に果敢に飛び込む、ということになりそうだ。元駐日大使ながら日本に強い姿勢をとる王毅外相との会談もいずれ行われるだろう。そうした場で毅然と向き合い、厳しいやりとりを重ね、鵬程万里の末に安定的な日中関係が築けるなら成果と言えそうだが、安易な妥協や無意味な決裂はリスクも伴う。
過去に2人いる女性外相を振り返ると…
そして、戦略的な外交のためには、国際社会への積極的な発信も欠かせない。実は上川氏も発信の重要性にはこだわりがあり、アメリカ留学中に「日本が何を考えているのかという発信の面、理解を得るための努力が弱い」との思いを抱き、同時に「政治の役割を痛切に感じた」という。そして、「どんなに素晴らしい考えでも、相手に理解されなければ何にもならない。伝えよう、そのために主張したり、説得したりすることを大事に考えていこうと思っている」と語っている。
一方、過去に2人いる女性外相を振り返ると、田中真紀子氏は希有な発信力で注目された半面、その協調性を欠いた言動があだとなり辞任に追い込まれた。また川口順子氏は安定した仕事ぶりの半面、国会議員でない民間からの起用だったこともあり、政治的なリスクを背負うような踏み込んだ発信が不足しているとの批判もあった。
そして上川氏のこれまでを振り返ると、堅実な仕事ぶりが評価される一方、発信力を評価する声はあまり聞かれないのが実情だ。体力増強のため「毎日スクワットをし、100回以上できるようになった」というそのパワーを今後発揮して、積極的な発信を含めた日本外交を展開できるか、注目が集まる。 (フジテレビ政治部 髙田圭太)