自転車ロードレース「ツール・ド・北海道」の死亡事故は、発生から2週間…大会を主催、運営する協会は今週、ようやく正式会見したものの、通行規制のコースに車が入った状況などについては「調査中」という説明に終始し、出場していた選手から憤りの声が上がっています。
8日午前11時37分ごろ、上富良野町の道道で、国内最大規模の自転車ロードレース「ツール・ド・北海道」に出場していた中央大学の4年生、五十嵐洸太(いからし・こうた)さん21歳が反対車線の乗用車と正面衝突し、死亡しました。
この事故を受け、今年の大会(8~10日)は、37回目となる史上初めて中止となりました。
警察によりますと、現場はカーブが連続する片側1車線の山間路で、自転車の走行車線は、警察が公式に規制、乗用車が走行の反対車線は、大会側で警備、規制していました。
現場のコースの通行規制は、午前10時40分~午前11時45分…その後の警察の調べで、事故は、通行規制の時間内だったものの、規制終了が迫る中で発生していたことが特定されています。
・警察への通報 午前11時51分 ・消防への通報 午前11時43分 ・事故発生 午前11時37分
事故車を運転の63歳の男性は、警察に対し「吹上温泉に向かうため、規制前だったので、そのまま通行した。現場近くの駐車場で、レースを見た」などと話しているということです。
一方、大会を主催、運営する公益財団法人「ツール・ド・北海道協会」は、現場のコースについて「監督会議などで片側のみの走行を通達し、反対車線は車両の通行を規制していた」と説明。
山本隆幸理事長らが19日午後、初めて開いた会見でも、それまでと同様の説明をした上で、肝心の通行規制のコースに車が入った状況、五十嵐選手が反対車線にはみ出した原因などは「調査中」をくり返しました。
また、五十嵐選手が所属の中央大学チームの監督、選手に対しては、葬儀が16日だっため、詳しい聴き取りなどはしていないということでした。
この大会には、今年、初出場だった五十嵐選手…すぐ後ろを走行し、事故を目の当たりにした選手は「自分は何度も出場していたし、基本的に反対車線への進入は避けるべきという認識だった」と話します。
その一方、片側車線だけの走行としながら、通行規制の反対車線もあるという“矛盾”を指摘し「自分も、通行規制のコースを走るときは『対向車が来るかも…』と思って、走ってはいない」と、微妙な選手心理をのぞかせました。
さらに、当時、五十嵐選手の前方を走行していた別の選手は、協会の会見に対し、憤りを隠しません。
Q.会見を見た率直な印象は? 「1人の若い選手が悲惨な死を遂げているのに、協会の対応は、あまりにも不誠実で、残念です」 「過失を問われたくないため、過失を問われるような発言をしないようにしているなと」 「質疑応答の時、記者の質問が終わる前に話を遮ったり、話しながら苦笑したり、不快でした」 「これでは、選手ファーストの安全対策も思いつかないと思いますし、こういった不誠実な対応もしてくる」
Q.事故後、選手同士で話したことなどがある? 「車両の通行規制コースに、事故車以外にもトラックを含む車が複数いた」 「警備は、どうなっていたんだと」 「以前なら、もっと白バイが各集団の前を走るなどしていた」 「他の選手や観客にも聴いたが、皆、明らかに今年は安全管理体制が“ずさん”だったと話している」 「去年、鹿児島で起きた死亡事故の時の審判もいたはずなのに、教訓が活かされてない」
Q.あらためて協会に望むことは? 「もっと選手1人1人に、しっかりと話を聴くべき」 「ドライブレコーダーがあれば、いつ事故車がコースに入ったのかなど、すぐにわかるはず」 「それすら確かめずに会見して『調査中』なんて、無理がある」 「安全対策について、むしろ『年々強化している』なんて、選手側と思考力の乖離がありすぎる」 「ここで原因をあいまいにしてしまうと、いつか必ず同じことが起きてしまう」
協会は、今後の安全対策などについて、第三者を含めた検討チームを立ち上げ、進める方針を明らかにしました。
<19日の会見、質疑応答要旨>
Q.事故車がコースに入った時間は? 「まだ確認していません」
Q.事故車以外にコースに入った車は? 「その点につきましても現在、調査中です」
Q.選手団の前にバイクなどでの先導もあったと思うが、車両の進入に気づけなかった? 「通常、この区間でなくても隊列の前に先導する車両、あるいはバイクが走りながら『1番先頭で選手が参ります、よろしくお願いします』というような広報をやっています」 「一般的には、対向車に気がつけば『後ろから来ますよ』というアピールはしてきている」
Q.それでも気づくことはできなかった? 「調査中です」
Q.進入車を発見した場合は、どう対応する予定だった? 「早い時間にコースの中に入って応援していただいてる皆さんがいれば『選手の集団が来ますので』とお伝えしながら走っております」
Q.事故にあった選手の出場歴は? 「初めて」
Q.今回のコースは、これまでの大会でも使用? 「直前では、2019年。それ以前も使っていた」
Q.反対車線での走行を控えるような指示は? 「片側走行を原則としていた。どんな場合も片側で走行」
Q.実際に走る選手への大会ルールの説明や資料配布は? 「チームの参加の打診をしている段階からしている」 「前日の説明でもしている」
Q.反対車線にはみ出しての追い越しなどは常態化?認識ある? 「基本的には片側を走る」 「完全にゼロとは言えない。隊列の中で」
Q.大会を重ねるごとに、各集団につくバイクの台数や看板の減少などが見られるという指摘は? 「毎年、毎年、大会後に事後の検討、反省をしている」 「走る状況に対して強化してきたし、リードビークルなども入れた」
Q.追い越しのペナルティは? 「設けてない。一般的なペナルティない」
Q.チームの中で、反対車線にはみ出して良いの指示はあったのか? 「今回の選手が追い越しに伴う事故だったのかは、わかっていない」
Q.先導する車両は、気づかなかったのか? 「先導車両が気づけば、必要な処置をしている」 「当日どうだったかは、調査中」
Q.追い越そうとした選手は何人? 「追い越しをしてたのかどうかは、わかっていない」
Q.大会側の過失の程度は、どう考えている? 「そこも含めて検討、調査中」
Q選手から「危険性がある」という声を聞いたことは? 「聞いたことがない」
事故発生から2週間…協会は、調査の期限、次の会見の見通しなどを示していません。
一方、この事故をめぐっては、警察も、五十嵐選手が反対車線に出た原因や当時の状況、協会の安全対策の問題など、事故の実態解明をすすめる方針ですが、いろいろ検討中とし、幹部は「かなり時間がかかる」などの認識を示しています。