富士山「いつ噴火してもおかしくない」、溶岩流は新東名まで1時間45分で到達…対策は立ち遅れ

[巨大災害 現代のリスク]<5>最終回

鉄道など交通網がまひし、停電や断水が発生。通信インフラも途絶――。政府の中央防災会議が2020年、富士山の噴火で首都圏に火山灰が降った時の影響をまとめた想定だ。人と政治・経済の中枢機能が集中する首都が、一気に混乱に陥ることを意味する。
1707年の宝永噴火では、江戸の街にも火山灰が降り積もった。降灰は2週間続いたとされる。
想定は、この噴火と同規模の噴火が起きたとし、除去が必要な火山灰は首都圏で最大約4・9億立方メートルに上ると算出する。東日本大震災(2011年)の災害廃棄物の約10倍の量だ。
宝永噴火は、マグニチュード8・6とされる国内最大級の宝永地震の49日後に発生。連動して起きた可能性が指摘されている。それ以降、300年余り静穏を保っている富士山が、30年以内の発生確率が70~80%とされる南海トラフ巨大地震と再び連動して噴火する可能性が危惧されている。
東京大と山梨県富士山科学研究所の最新の研究で、噴火の空白期間は過去5000年で、現在までの約300年間が最長となることがほぼ確定的となった。
同研究所の藤井敏嗣所長は「いつ噴火してもおかしくない。3世紀の間に地下にマグマがたまっている可能性があり、次の噴火は大規模になるとの覚悟も必要になる」と語る。
麓の自治体などでつくる対策協議会は21年、噴火ハザードマップを改定。溶岩量は従来の2倍近い最大13億立方メートルとし、溶岩流の到達可能性エリアを山梨、静岡両県から神奈川県を加えた27市町村に拡大。最短で新東名高速道路に1時間45分、東海道新幹線に5時間で達するとし、早期に避難を促す体制作りを進める。
日本は111の活火山がある「火山列島」だ。気象庁は、影響の大きい49火山を対象にレベル5(避難)からレベル1(活火山であることに留意)まで5段階に分類する噴火警戒レベルを導入し、常時観測を行っている。現在は桜島(鹿児島県)と口永良部島(同)のレベル3(入山規制)が最高で、富士山など43火山はレベル1にとどまる。
しかし、レベルが危険性を必ずしも反映していないのが現状だ。レベル1だった御嶽山(長野、岐阜県)は14年に噴火し、戦後最多の63人が犠牲になった。噴火前に山体の変化などの兆候が目立たない水蒸気噴火だったのが一因だった。
国内で最後の大規模噴火とされる1914年の桜島大正噴火では、溶岩流で大隅半島と桜島が陸続きになり、東京、仙台でも降灰が確認された。桜島のマグマだまりには大正噴火直前の9割近くまでマグマがたまっているとの見方もある。
火山対策は、地震と比べ、立ち遅れが指摘されている。御嶽山の噴火を受け、49火山の地元市町村は登山者らが逃げ込む「避難促進施設」の指定が義務付けられたが、対象の23都道県のべ202市町村のうち、指定済みは20都道県62市町村(昨年度末時点)だけだ。
政府は来年度、研究の司令塔となる「火山調査研究推進本部」を文部科学省に発足させる。大学や研究機関、気象庁が個別に行う観測態勢の強化を目指す。
火山噴火予知連絡会の清水洋会長は「遠くない将来、大規模噴火が起きることはわかっているのだから、後悔しないように備えなければならない」と語る。

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